ようこそ学園へ 〜長編〜

□廓の小鳥
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名前と半助は六畳程の部屋に座っていた。
しかし疲れからか緊張からなのか、名前は蒼白のまま座るさえも辛そうで、今にも倒れそうだ。少し背を擦ってやると、やはりにっこりと笑むが力無い。
必死で耐える名前の姿をもどかしく思い、半助はそのまま少し強引に肩を引き寄せた。
少し驚いたようであるが、抵抗する力などなく、されるがままである。

暫くして、山賊の首領はこの店の主人らしき人物を連れてきた。
恰幅が良く、いかにも私腹を肥やしていそうな中年の男である。
部屋へと入るなり二人を舐めるように見るが直ぐに背を向けて、こそこそと話し始めた。
常人には聞こえずとも、研ぎ澄まされた忍の耳は誤魔化せない。

「三島さま、いかがでごぜえますか?」

「なるほど見目良き女子じゃな。」

「これなら南蛮人も、堀黒さまも、お気に召しますぜ」

「しっ!孝太っ!軽口を叩くでないっ!」

聞こえては不味いとばかりに、慌てて叱咤するが、孝太と呼ばれた山賊の首領は薄ら笑みさえ浮かべている。恐らく、世間知らずの娘であると信じて疑っていないのだろう。
半助はふと思った。堀黒と言う名に思い当たる節がある。それは、大黒屋の主人の名、堀黒庄右衛門である。
話しの中の名が、誠に大黒屋の主人であれば繋がりは明らかである。

程無くして、今度は中年の女が部屋に入ってきた。小太りで目付きが鋭い。
この店の主人の妻か、または遣り手と呼ばれる遊女の監視役だろうか、と半助は考えを巡らす。
三島屋の主人が目で合図をすると、女は心得たように半助の腕を掴む。

「あんたたち、何ぼうっと座ってるんだいっ!部屋はこっちだよ!」

名前を背負い、後に続こうとしたが三島に呼び止められた。

「お嬢さん。ずいぶん力があるんだね。」

「ええ。妹は体が弱く・・・、貧しい家柄でしたので世話はいつも私が・・・。」

不味かったかもしれないと思った。
公家の娘が人を担ぐなど聞いた事がなかった。
しかし、直ぐに三島屋の二人は再び話し始め、こちらへは興味が無さそうにしている。

「なにやってんだい!さっさと付いて来な!」

中年の女は苛立ったように、二人を催促して目的の部屋へと向かった。
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