ようこそ学園へ 〜長編〜
□巡る思い
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闇に支配された林の中を利吉は駆けていた。
この人には真闇も真昼もさして変わり無く、慣れた動作で木々の合間を縫う。
目的の場所は、三島屋である。
行く手を阻む雑木林を一思いに跳躍しながら、つい先程まで居た忍術学園でのやり取りを思い出した。
藍色の薄闇が光を飲み込む黄昏時、利吉の姿は忍術学園の庵にあった。
学園では夕食の準備は個々に任されているため、あちらこちらで魚を焼いたり、飯盒で米を炊く匂いが、この離れた庵にまで漂っていた。
開かれた障子戸の奥には、学園長と利吉が対面するように座していた。
「利吉くん、ひとまず御苦労だった。」
利吉はつい先程、己の父のいる東雲城から帰還したところであった。迎える学園長に、挨拶をしながら、利吉は報告を始めた。
最近は、城主の叔父である雅平は不在がちで、城内ではほとんど、その姿を見かけないというのである。
南蛮寺で過ごす時間が多く、時には大黒屋や三島屋への出入りも見掛ける。
そして、何やら不振な動きも多く、今宵は三島屋で三者が集まるらしいのだ。
それが何を意味するのか、学園長は瞬時に推察する。さすがは天才忍者と謳われた男である。
「成る程。南蛮船の渡航が近いのかもしれん。」
学園長は側近く置いてあった湯飲みに手を伸ばし、一口、口に含んだ。
「そうか。いよいよ奴等の目的も明らかになるというものじゃ・・・。」
表情を変えずに、再び茶を啜ると、学園長は物思いに耽るかのように黙った。しかし、それも一瞬のことで、すぐに思い出したように続けた。
「そうじゃ。利吉くん、父上の様子はどうじゃったかな?」
利吉は、東雲城に立ち寄ったおりに、父にもこの内容を告げてきたばかりである。
「はい。水野様の取り計らいもあって、奥女中として潜入しております。」
「伝蔵のことじゃ、女中に化けるのは得意じゃからして。」
かっかっか、と笑う学園長を他所に、ふと、女装姿の父を思いだし、利吉は溜め息をついた。
「はい。まあ、父の女装は趣味というか主義の境地に達していますから・・・」
呆れるように言う利吉に、学園長は更に声を立てて笑った。
その頃、東雲城では盛大なくしゃみが聞こえたのだった。