ようこそ学園へ 〜長編〜

□潜む闇
1ページ/7ページ

兵法書では敵よりも高い事が優位であるとされている。

しかし戦が多大に行われるようになると、山城のような山地では対処できなくなり、昨今は、平地近くに作られる平城へと形態が変化し、それはこの東雲城も例外ではなかった。

山間の平地に位置し、交通の要所でもあるこの城は、南西部に本丸を、北部を欠いた凹型の二の丸が囲み、それを四方から三の丸が囲む輪郭式と呼ばれる縄張りである。
さらに周りを水堀によって敵襲を阻んでいる。
その為、容易には城下との往来は不可能であるのだが、何故か今宵も跳開橋は正門と町との道を繋いだ。

岸向こうの背の高い男が合図をすると、門番たちは心得たように解錠しギギギ、と木の軋む音と鉄鎖の擦れ合う音がし橋が掛かる。


「水野さま、あまり不用意に外出されては私たちがお館さまに怒られてしまいます。」

門番の一人が、橋を渡ってきた侍風の男に苦言を呈した。
既に時は丑の刻をゆうに過ぎている。それを配慮してか男は「許せ」とだけ言うと、恨めしそうな門番たちの目を物ともせずに颯爽と門をくぐって行った。

男の名前を、水野景元と言う。
年若くして東雲城の宿老となったキレ者であり、いま正にこの城の中心人物となっている。

東雲城の領主、東雲秀頼は今年、元服を済ませたばかりである。
その父であり先代領主であった勝頼は齢四十という若さであったにも関わらず二年程前に亡くなっている。
そうして若くして領主となった秀頼を陰で支えているのが、この男であり、領地がさほど大きくはない東雲城がこれまで近隣の城に落とされなかった理由の一つでもある。

無口で無表情が常であるため、何物も寄せ付けない雰囲気が漂うが、その実、情が厚い。
故に、位高く本来であれば愚痴など溢せるはずもない、宿老と言う立場でありながらも城の従者たちは、水野に対して皆どこか気安いのだ。

「やれやれ、水野様にも困ったものだ」

一人の門番が苦笑し言う。言葉には若い宿老への愛着がこもっている。

「しかし、最近になって頻繁にお出掛けなさるじゃねぇか。いったい、こんな夜更けまでどこへ行ってんだろうな。」

「そりゃあ、お前。水野様だって男盛りだ。最近、町で評判の遊郭って所じゃねえか?」

ニヤリと意味ありげな表情をするが、他の男たちは唖然としている。

「まさか!あの堅物で女嫌いの噂まである御方が?」

一同、納得したように頷いている。
果たして、この城の宿老は度々どこへ出掛けているのか。
その答えが出ないまま夜は更けていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ