ようこそ学園へ 〜長編〜

□嵐の夜
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月は陰っていた。
雨を含んだ厚い雲が風を吹き起こし、夜の闇を更に濃くしていた。
空には星もなく、ただ風が遠くで呻くのみである。
この生温い風が止めば、程なくして雨が降りだすだろう。
忍術学園の学園長は庭園の揺れ動く木々の間を見つめながら考えていた。

「戦の前に降る雨は縁起が良いそうじゃが・・・。」

一人ごちたが、それは直ぐに空の音に消された。
尤も雨に降られれば足場が悪くなって敵わない。普段も然り、戦なら尚更だ。

今宵は三島屋に潜入している半助と名前、そしてその友人の脱出が行われる。
半助が件の密会を探った後、予め控えている利吉に合図を送る計画になっており準備も整っている。
仮に出ていく事に気付かれたとしても、被害が最小限に抑えられるよう脱出は皆が寝静まった頃に実行されるのだ。
難しい任務ではなく、熟練した忍が二人いれば心配は無用である。
戦ではなく、脱出なのだ。
頭ではそう考えていても何故か胸騒ぎがする。
ざわざわと揺れる木々に己の心もまた動かされているのかもしれない。
半助らのこれからの諸行とは全く関係の無いものであると自らを戒め、学園長は目を閉じた。

「武運を祈る」

半助らが居る方角に向かい呟くように天に願った。
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