ようこそ学園へ 〜長編〜

□花の香り
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まだ夜も明けきらぬ頃、忍術学園ではこの学園の主の大音声が鳴り響いた。

「なんじゃとっ!?」

たった今、帰還した利吉より事の経緯を聞かされると驚きを隠せず思わず叫んだのだった。

「なぜじゃ!半助に利吉君までついていながらにして・・・」

言葉は目の前で平伏したままの利吉に対してではなく自分に対してであった。
予感はしていた。しかし事の読みを間違えたのだ。悔いても悔やみきれない。

「申し訳ございません。」

学園長に言われずとも利吉自身もまた悔いていた。 名前を脱出させるのは容易いと、どこか鷹を括っていた部分があったかもしれない。
既に利吉と共に唯もまた忍術学園に到着しているが、もし状況が違えば彼女もまた無事ではなかったかもしれない。
弁明する気も起こらず、ただ平伏するしかなかった。

「・・・今は悠長にしている暇はない。半助はどうしておる?」

「はい。 名前さんが連れて行かれたであろう方角を捜索しております」

「そうか・・・」

人一倍、責任感の強い半助の事である。 己と共にいながら名前が拐われたとなれば一人でも敵地に乗り込んでしまいかねない。
一見、理で動く男のように見えるが、そう言う危うさも時にある事を学園長は知っていた。

「いま乗り込んだとて得策ではない事は確かじゃ。しかしこちらの意図が知れれば 名前の身が危ない 」

「・・・・はい。」

「利吉君。急ぎ救出に手を貸してくれ」

「御意」

返答するが早いか去るが早いか利吉は昇る朝日に背を向け森へと消えていった。
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