ようこそ学園へ 〜長編〜

□たまゆらの糸
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雨は上がり空は何事も無かったかのようにすっかり穏やかな顔をしている。
東雲城では朝日を受けた中庭に小さな虹がかかっていた。

しかし城内では昨夜の大嵐であちこちに折れた木の枝やら雨水が入り込んでおり、早朝にも関わらず下働きの者たちが慌ただしく片付けに追われていた。


そんな中、働き回る者らの足音を聞きながら老中水野景元と、山田伝子もとい山田伝蔵は一室で対面し座している。
障子から薄く朝日が射し込んでいるこの部屋だけ、まるで違う空間にあるような静けさである。

「成る程、雅平様はやはり」

伝蔵から事の経緯を聞いた景元は一言そう呟くと再びまた考え込むようにして黙した。





昨夜、三島屋からの脱出失敗の一報は即座に伝蔵のもとへも届いた。
俄に信じがたく報告を受けた瞬間はまさかと疑う程であった。

半助とは長年の付き合いである。
性格こそ情に脆いが、忍としての力量はこの日ノ本の国でも指折りの内に入るであろう。

(あの半助が・・・)


そう思わずには居られなかった。
しかし今ここで論じなければならないのはその事ではない。

「三島屋での話しによると三、四日のうちには南蛮船が港に着くとか。」

「そのようですな。」

「銃などと。やはり若殿を殺めご自分が新たな領主になられるおつもりか。いったい何故!」

沈着冷静な景元であるが事の不可解さに苛立っている様子であった。
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