ようこそ学園へ 〜長編〜

□手繰る想い
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闇を纏ったかのような黒装束。
同じく墨染頭巾の出で立ちは正に闖入者であるが名前が恐怖を感じる事はなかった。
それはこの青年が何故か手に白いチョークを持っていたからかも知れない。

「・・・名前」

鬼気迫るといった表情から一変して安堵するように青年は優しく笑んだ。
その格好にはそぐわない穏やかな瞳である。
数歩離れていた距離がその存在を確かめるかのように、ゆっくりと縮められて行った。

「・・・・良かった。無事で」

触れられる程度の距離になると青年の背が高い事に気が付いた。
やや見上げるようにしてその瞳を覗くと、どうしてか心ゆるび懐かしい気がしたのである。
決して細くはない骨張った手が名前の頬に触れたあと、ごく自然に名前の体は引き寄せられたのだった。

「・・・良かった」

ただ一言そう言うと、背に回された腕に力がこもって行く。
きつく抱き締められるが不思議と嫌悪感はなかった。
むしろ涙が込み上げてくるような、そんな感情であった。
耳元で一人言のように呟くその声にも名前はやはり懐しさを感じたのであった。

(・・・・いつ?・・・いったいどこで?)

あやふやな状態になってしまっている自分が情けなかった。
しかし思い出そうとすればするほど頭の中に白い靄がかかり行き止まりになる。

ただ先程のような不安に駈られないのはこの胸の温かさ故だろうか。
陽だまりのように安らぐ温もりが不安という名の氷を溶かして行くようであった。

(・・・・・この人は、いったい・・・・・?)
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