ようこそ学園へ 〜長編〜

□螺旋の紡ぎ
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「雑渡せんせ〜い!!」

忍術学園の事務員である小松田秀作の緊張感の無い呼び声が夕刻の回廊にこだました。
授業を終えた雑渡を引き留める為であった。
は組の担当教師代理となって早々に彼は雑渡の事を先生と呼ぶようになっていたのだった。
雑渡が振り向くと小松田は仔犬が尻尾を振るようにして走りよった。

「お客様がいらっしゃってますので先にお部屋にお通ししておきましたよ!」

どこか誇らかな笑顔で、それじゃあと言って去る彼の抱え持つ入門表に目を走らせた。
そこには半ばやけくそな字で良く知る名前が書かれていた。
諸泉尊奈門と。





部屋の戸を開けると尊奈門が平身低頭しかりとして待っていた。
黒装束がやけに汚れているのは忍術学園の鬼の番である小松田秀作から逃れていたためか。

「・・・・今回も小松田くんから逃げ切れなかったか。」

開口一番に冷めた声でそう言われた尊奈門は決まりが悪そうに小さく呻き、額が擦り切れんばかりに更に深く顔を俯かせた。

「それより・・・・。ドクタケはどうだ?」

話題が変わった事が分かると尊奈門はぱっと顔を上げ、ややきりりとした表情で早口に話し始めた。

「はい!黒鷲の小頭からはどうやら丹波のはぐれ集団が関わっているようでして」

「・・・・ほう?」

「何でも奇っ怪な術を使うとの事で・・っムグ!?」

話し途中の尊奈門の口を雑渡は自らの手で覆った。
鼻まで強く押さえ付けられた為か尊奈門は目を白黒させ呼吸困難に陥っているようであった。
そんな尊奈門にはお構い無しに雑渡は気配に集中すると淀み無く問う。

「学園長・・・・。如何されましたか?」

気配を感じさせずに障子向こうに現れたのは大川平次渦正だった。
この一件で矜持を深く傷付けられた事をかなり根に持っていた。
それ故、雑渡に対して訳もなく仕掛けて来るといった行動は日常茶飯事と化していたのだった。
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