ようこそ学園へ 〜長編〜
□交差する運命
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学園長は一点を見つめる半助の様子を、ちらりと一瞥し煙管を燻らせた。
そして、自らも思案に耽る。
この戦国の世は儚いものである。
昨日の友は今日の敵、家族もなくし、明日の命も分からない。
だから自らの心さえ失ってしまう。
ことに忍は自らを失いやすい。
志しのある忍は、それ相応の力を身に付けねばならない。
しかし、その力を驕ると自らの志しとはかけ離れてしまう。
「・・・・忍とは、かくも無常な生き物じゃな。」
がたがたと風が部屋の戸を再び勢いよく揺らす。
すきま風が煙管の灰を赤々と燻らせると、一瞬の明かりがまるであやかしの目のように瞬いた。
不意に、部屋に近づく気配に二人は気付き、意識を戸口に遣った。
「学園長。宜しいでしょうか。」
そう言い戸口の先に居るのは、1年は組代理教師の雑渡昆奈門であった。
「良い。如何した?」
外の大風も、この人の側だけは避けるかのような静けさが漂う。
音もなく部屋へ入ると、半助の方に少しだけ会釈をし淡々と話し始めた。
「はい。いまだ西の海上では南蛮船らしき船が確認なしと、備後に渡らせた部下からの連絡が先程入りましたゆえ、こちらにもご報告までに。」
「ほお。この天候では到着は予定通りとはいかぬか。・・・とすると」
「仰る通り、瀬戸内より先は更に荒れている様子。近頃のこの荒梅雨の天気にかなりやられているようです。」
学園長は吸い口を上下させ遊んでいるようであった。
半助は時々、この深刻さを感じさせない余裕が学園長の強さであると感じている。
「まあ、時期も時期じゃ。もとより、南蛮船云々はそううまく事が運ぶとは思えぬものではあった。・・・やはり、東雲城の一件ということじゃが、水科が相手というのがちと厄介じゃのう。」
最後の言葉部分でちらりと昆奈門の方に視線を遣るが、当の本人は無視を決め込んでいる。