ようこそ学園へ 〜長編〜
□水科の梟
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どこか遠くで雷鳴が轟いている。
この暗い石牢のなかにあっては、木霊する雷の音だけが、確かに自分は存在していると、この世にたち戻らせた。
ここは昼間であっても薄暗い。
人里離れた洞窟なのであろうか。
僅かな陽光しか届かず湿った空気が冷たかった。
人の声も何も聞こえず時々、自分が生きているのか死んでいるのかさえ分からなくなるときがある。
この牢屋に閉じ込められてどれ程の月日がたったのか、もはや分からない。
はじめのうちは、眠りにつく度に小石で石牢の壁に正の字を書き記していたが、意味の無いことに気付き程無くしてやめてしまった。
足には枷がつけられており、この四畳ほどの牢屋の中からは出られないようになっていた。
枷に囚われて、自由に動くことすらかなわない手足はすっかり痩せ細ってしまっている。
一日に2度、番兵らしき男が入れ替わりに、格子越しに食事を運んでくる。
しかし、それだけである。
(なぜ、私がこのような場に居らねばならぬのか・・・・。皆目、見当がつかない。)
東雲城の先代の城主が身罷られて以後、たびたび自分の周りで不振な者を見掛けてはいた。しかし、まさかこのような事態になろうとは想像だにしなかった。
いったい、いつまで自分はここに繋がれたままであるのか、その事を考えると気が狂いそうであった。
格子を掴み、理不尽を訴えたところで通じるような相手ではないことは、すぐに分かった。
そして、助けが無いことも1週間をすぎた頃には確信になっていた。
だからこそ、期を伺い耐えている。
「・・・神よ・・・。」
再び、稲妻が辺りに轟いた。
今度は先程の音より近くで鳴っている。
そして、雷鳴に混じって金属を打ち付け合う高い音が響いてきた。
「・・・・?」
訝しげに、格子に近付き外を確認しようとしたが、辺りは闇に包まれており、ここからは人影は何処にも見当たらなかった。
ふと、金属音がやみ、瞬く間に人の近付いてくる気配がした。
身構えるように片膝をつき、姿勢を低くした。すると、想像していたよりも若い青年の声が低く届いたのだった。