ようこそ学園へ 〜長編〜

□来たる時
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薄闇の空に閃光が走る。
雷鳴は山の間を木霊するように轟いていた。
夏至が近づいており、昼の時間が長い時節であるが、既に夜の気配が迫っていた。
連日続く、荒雨と風に植えたばかりの稲を倒されないよう、遅くまで野良仕事に精を出していた百姓らは、田の畦道を、急ぎ家路に戻っている。
雨を待ちわびるようにして、蛙の鳴き声も一段と大きくなると、一粒、二粒と雨が落ち始めた。
そんななか、傍らを何かが走り去ったが、百姓らがそれに気付くことは無かった。
風ではない。
獣の気配でもない。
駆ける利吉である。

「また雨か」
利吉は、口の中に呟く。
頬にポツリと落ちた雨粒も、瞬く間に強くなり始めた。

雨音は人の気配を消す。
忍の者の勘は強い雨によって相当の狂いが生ずる。

(ここからは水科の輩も相当数いるだろうに・・・。)

利吉が向かっているのは、水科の根城である。







(水科の梟か・・・・。)

駆けながら、頭の片隅に南蛮寺で対峙した忍の姿がこびりついている。
老爺に扮した忍と己の力量の差が大き過ぎたのだ。
自らの忍としての能力を自負しているが、それは決して自惚れではない、と思っていた・・・・。

(あれが妖術なるものなのか?)

南蛮寺から逃れてきたのは昨夜のことであったが、先ほどの出来事であるかのように鮮烈な印象を留めている。

昨夜、水科からの追跡を突き放したのを確認し、利吉は半助および名前と別れて東雲城の伝蔵の下へと向かったのだった。
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