ようこそ学園へ 〜長編〜

□託された銅板
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山の木陰に、雲雀が鳴き始めている。
日差しを浴びた草むらの葉が風に揺れた。

(良い城だ。この城は・・・)

渕東(えんどう)数馬は木陰にある岩に腰を下ろしたまま、もう一刻も彼方の東雲城を眺め入っていた。
初夏の陽は中天に差し掛かろうとしている。

以前の東雲城は、いま数馬が眺めている山の向こう側、すなわち東面にあった。

亡き先代 勝頼の治世になり、東雲城下に住み着く住民は増えた。
当時の治世は、甲斐の武田の民政にも劣らぬと、人々に謂わしめた程の評判であった。
人々が増えて、もともと山城の構えをとっていた東雲城も、今はこの平地に居を構える事となったのである。

(父上はどのような思いで亡き殿と、水野様に仕えられていたのであろう。)

数馬が生まれる前、今は亡き数馬の父は、もとは但馬の御家人であったという。
しかし度重なる戦と、飢饉により何もかもなくして、浪人として諸国を巡り歩くこと幾数年。
浪人であった数馬の父を拾い、召し抱えたのは当時から東雲家の家臣であった水野家であった。

(但馬の御家人・・・。建前は、な・・・。)

数馬の手には蝸牛を型どった小さな銅板が握られていた。
それは父の代から受け継いだ代物である。
父の最期の言葉が脳裏に蘇った。

(「良いか。この銅板と同じ物を持つ者が表れたら、その時こそお前の役目であるぞ・・。」)

ふいに、馬の足音が聞こえて後方を振り向いた。
河原毛の水野の愛馬である。
騎乗しているのは、もちろん水野景元であった。

「・・・・水野様、」

数馬は立ち上がった。
いつもであれば側近く駆けてゆき手綱をとるのであったが、浅く俯き立ち竦むのみである。
正面から僅かに伺い知るその顔はどこか憂えている。

「ここにいたのか。城の方にも姿がないゆえ・・・。」

馬から降りながら景元は数馬の様子が常ならぬ事に気付く。
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