月の沈む刹那の間に 〜短編〜

□夜明けの頃 1
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そよ風も微睡んでしまうような昼下がり。暖かい日差しに誘われるようにして小鳥たちが鳴いている。

そんな春の気配を感じさせる陽気の中、半助は部屋で採点作業を行っている。
しかし、その手は止まっており何やら考え事をしていた。
そして、その心は外の穏やかな陽気とは反対に真っ暗闇であった。
原因は数時間ほど前に遡る。



午前の授業が終わった後、半助が急いで向かった先、それは名前が事務の仕事をしている東の部屋であった。
名前は半年前からこの学園で事務員をしている。
くの一ではない年頃の女性で気立ても良い為、当初から生徒、教師問わず人気者であった。
最初はそんな様子を呆れながら傍観していたのだが、 名前と関わる内に自分もいつの間にか彼女に恋してしまったのだから笑ってしまう。

最近は何かと理由を付けては彼女の元へ通っている。
今日も問題用紙を刷るのを手伝って貰おうと向かっている。
そう言えば、最近やけにテストやら宿題が多いと生徒達から苦情が出ているようだが、そんな事はお構いなしだ。

彼女の笑顔を思い出すと胸がざわつき、くすぐったくなる。
もうすぐ会える、その思いで嬉しさが込み上げ自然と口元が綻んでしまう。

しかし、部屋まであともう少しという廊下の角で足を止める。そして咄嗟に己の気配を消した。
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