月の沈む刹那の間に 〜短編〜

□黎明の時 2
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桜の花は散り、今は青々とした深緑が鮮やかに木々を彩っている。
空から降り注ぐ日の光は濃く、既に夏のそれへと変化している。

名前は学園の門の掃除を、小松田秀作と行っていた。
ホウキが握られているが、今その手は止まっており、更に一つ深い溜め息を落とした。
ここ最近、 名前の様子に異変を感じていた秀作は迷わず尋ねた。

「 名前さん、どうしたのぉ?最近、溜め息が多いみたいだけど・・・。 」

名前は思わずぎくりとした。
先日、土井先生から告白され、その事がずっと頭から離れないでいるのだった。
返事は直ぐでなくても構わない、と言われ、もう二週間程になる。さすがに何も言わないのは失礼だろうと思いつつ、自分の気持ちが整理出来ていない。想いは嬉しかったのだが、そこから先の事を考えると少し怖い。
その考えが小松田秀作に読まれていたのだろうか、と一瞬思ったのだが直ぐに訂正した。

「・・・・ちょっとね。」

どう説明して良いのか分からず言葉を濁し、再び掃除を進める。

暫くすると鐘が鳴った。授業終了の合図である。
すると、一年は組が野外実習を終えて、皆帰って来る所であった。
次々に元気に門を通って来る生徒たちと挨拶を交わす。名前はにこやかに応じながらも、少しづつ後退していた。

・・・・このままでは、土井先生と会ってしまう!

あの日以来、何となく顔を合わせずらくなり避けてしまっている。
会えば自分の気持ちを話さなくては、いけない状況になるだろう。

「あっ!私、吉野先生から資料室の整理を頼まれてたんだった!」

後は宜しく、と言わんばかりに名前は持っていたホウキを秀作に渡し、慌てて逃げるようにしてその場を後にした。
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