月の沈む刹那の間に 〜短編〜
□出会い〜番外編〜
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「まったく、あいつらは何をしてるんだ」
そう溢したのは忍術学園の教師、土井半助である。学園の門前で、出席簿を小脇に抱え仁王立ちしている。
隣には同じく実技担当教師の山田伝蔵もおり、二人とも渋面で彼方を見遣っていた。
昼過ぎに一年は組を校外鍛練で裏々山まで走らせ、既に殆どの生徒が戻って来ているというのに、お決まりの三人組が戻って来ない。
「どうせ、またどっかで道草でも食っているんだろ。・・・しかし、それにしたって遅いか。」
伝蔵は呆れ返ったように一人ごちたが、ふと不安がよぎり続けた。
辺りは日が沈もうとしている。木々の間の闇は深く、日の当たっていた時間とはまったく別の顔を見せている。山の闇に潜むのは獣だけとは限らない。
「山田先生、ちょっとその辺りまで様子を見て来ます。」
伝蔵の言に己もまた嫌な予感をおぼえ、半助が駆け出そうとしたその時だった。
「せんせえ〜!土井せんせえ〜!」
今まさに向かおうとしていた彼方から、しんべえがこちらへと駆けて来ているのが見え半助はほっとした。しかしそれも束の間で、直ぐに乱太郎ときり丸が一緒ではなく、しんべえが蒼冷めた顔をしているのに気付き、血の気が引いていく。
「しんべえ!何事だ!乱太郎ときり丸はどうした!?」
伝蔵もまた同じく只事ではない様子に冷静では居られず慌てたよう問いただす。
しんべえは肩で息をしながらも、必死で伝蔵と半助を見て助けを求めた。目には涙をいっぱい溜めている。
「乱太郎ときり丸が!山賊に追いかけられていた女の人を助けようとして・・・」
「それで!二人は今何処にいるんだ!」
伝蔵が荒々しく訪ねると、しんべえは切れた息の為か涙の為か掠れた声を必死で繋いだ。
「一本松の西側の・・・山のふもとのあたり・・・!」
「よし、しんべえ、よくやった!お前は学園でこの事を学園長に!私と土井先生は救出に向かう。頼んだぞ!」
伝蔵はそう言うと、半助に目線で一瞬の合図を送り、二人は瞬く間に闇が支配する山間に消えて行った。