月の沈む刹那の間に 〜短編〜

□果てない呪縛1
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「いや〜今日も良い天気だ」

ぱんっと洗濯したての衣を小気味良く鳴らしているのは土井半助。
朝の光が長屋の庭にも降り注ぎ、心までも洗われたような清々しい気持ちに自ずと笑みが溢れる。


「あらぁ、今日も朝から精が出るわねぇ」

そう言い現れたのは隣に住む中年の婦人である。
世話好きで少々お節介が過ぎる所もあるが気は良いこの人物。
近所ではおばちゃんと呼ばれ親しまれている。
こちらも洗濯された衣を籠いっばいに抱えている。

「おばちゃん、おはようございます!」

「今日はきり丸は?」

「相も変わらず時給労働にいそしんでますよ」

全く困ったものだと言った風情で半助が苦笑するのも毎度のことである。

「あの子も良く働くねぇ。」

「ははは・・・・」

乾いた笑いで返事をし、また良い音をたてて衣を干していく。

男であるが手際良く家事をする半助の姿を見ておばちゃんはふと思った。

(いつも思ってんだけどこの人何の仕事をしてんだろうねぇ。)

実際どんな仕事をして身をたてているのかは謎だが男前なのは間違いない。
現に長屋の若い娘の中には密かに慕っている者も少なくなかった。

「ねぇ半助、あんたお嫁さんはまだ貰わないのかい?」

「・・・・へ?」


「あんただって良い年なんだし嫁様の一人や二人いたっておかしくないだろ?」

「一人や二人って・・・・」

半ば絶句する半助を他所におばちゃんは更に続けた。

「仕事が忙しいみたいだからさ、家のことやってくれるお嫁さんがいたって良いじゃないか」


「ま、まぁそうなんですが・・・」

「それとも何かい?あんた何か問題でもあるのかい?」

半助はどきりとした。
問題と言えば問題だ。
支えてくれる人が居てくれればと思ったことが無い訳ではない。
しかし忍という生業はいつ何時危険があるか分からない。
もちろん危険は自分だけではなく、次第によってはその家族まで及ぶ。
この乱世では仕方がない事かもしれないがそれを良しとして受け入れる事は忍びなかった。

「・・・・・」


何やら黙りこんでしまった半助を見ておばちゃんは、はっとした。

「・・・・まさか」

忍という事がばれてはいけない。
いつにない猜疑の目を向けられ半助の背を冷たい汗がつたった。


「あんた男色なん・・・・」

「断じて違いますっ!」

猫のように背中を逆立てて半助は真っ向否定した。
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