ようこそ学園へ 〜長編〜

□真実か偽りか
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長らく学園長の庵に在った伝蔵だったが、自室近くまで来ると部屋に明かりが灯っているのに気が付いた。
障子戸を開けると、既に同じく戻って来ていた同室の年若い同僚がそこに居た。どうやら生徒の宿題の添削を行っていたらしい。

「山田先生、お疲れさまでした」

こちらに気づいた半助が作業の手を止めた。伝蔵は腰を降ろしながら先程の事を思い返し問うた。

「あの娘はどうした?」

「はい、だいぶ疲れていたようでして。新野先生の治療中に寝てしまいましたので、客室の方へ運びましたが?」

「ふむ・・・・。」

そう言って、伝蔵は暫く考えるような振りをして再び口を開く。

「・・・半助。あの娘をどう思う?」

どう、と言われても。と顔に書いてあった。
それに内心少し苦笑しながら、けれどそんなことは億尾にも出さず伝蔵は半助の答えを待たずして尚も問う。

「あの娘の服装、何かおかしいと思わなんだか?」

「そう言えばあまり見た事の無い物だったような・・・」
半助は呟くように言い、顎の辺りに手をやり考える。

「諸国どこを探しても恐らくあの様な格好をしている者は居らんだろう。少なくともわしは見た事がない。」

胸元辺りまでの髪を結いもせず、体の線が分かるような格好。くの一のそれとも似ているような気もするが恐らく忍びではないだろう。
それにしても、と伝蔵は思う。若い娘の姿に興味が無いとは・・・
つい言わなくても良い事を冗談まじりに言ってしまう。

「半助ぇ、それだからお前さんは、その年になっても嫁さんが無いのだ」

はっとしたようにこちらを向き、それと此れとは話しが違いますっ!と全力で否定し憤慨する同僚を笑って宥めた。
まだ不貞腐れながら採点作業を黙々と行う姿が微笑ましくもあり、伝蔵は親のような心持ちで暫くその姿を見ていた。
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