ようこそ学園へ 〜長編〜

□始まり
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名前は俯いた。
元の世界で元気であってくれれば良い。
けれど、こちらへ来ていて、もし危険な目に合っていたら、と思うと居ても立っても居られない。焦りと自分の無力さを否応なしに感じてしまう。

俯いたまま、しかし何かに耐えるように己の拳を握り締める名前を、半助はその境遇が、遠い過去の己と重なるような気がしていた。

戦禍に捲き込まれ家族や友人を一度に無くした子供の頃の自分。
その時、救いの手を差し伸べてくれた人物である師匠は既にこの世には居ない。
しかし師匠に言われた事を思い出して今度は自分がその言葉を口にする。


「 ・・・苗字さん、家族や友人の事も心配でしょうが・・・、今は自分の事を考えて下さい。 」

自分が生き延び、その術を身に付ける。
それが愛しい人達の為になると言う事を半助は知っている。
名前には元の世界に帰れると言う希望もあるが、帰ることが出来ないかもしれないと言う絶望もある。
だからこそ今の名前に言わずには居られなかった。


・・・・確かに、その通りかもしれない。

名前は地に落としていた視線を半助に向けた。
年は相変わり無さそうに見えるが、言葉の意味する所を知るこの人物は自分よりも余程厳しい世の中を生きてきたのではないかと思った。
命あっての物種だ。
一時か一生か、いずれにせよ今まで生きてきた世界とは全く違うこの世界で生きていかなければならない。
その為に今自分が出来る事を考える必要がある。

「・・・ありがとうございます。」

名前がそう言うと半助は笑んだ。
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