ようこそ学園へ 〜長編〜

□夜雨の闇
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町に着いて、程無くして雨が降り始めて来た。
目的の界隈は大通りから外れた小路の奥にある。
時はまだ宵の口であるが、雨雲が空のあらゆる光を遮り暗い。
その為か早々に提灯が灯され、この辺りだけが異様に明々としている。
濡れた路が提灯の明かりを映し出していたが、傘をさした曳き子や客やらが行き交い幾度となく消されていき、朱塗りの妓楼では艶やかな女たちが店先で手招きしながら客を呼び込んでいた。

二人が町に到着した頃には、雨も本降りになって来ていた。通りがかりの質屋で傘を一本買い求め凌ぎ歩いていると、その道の女かと思う者もあったようである。その為、大通りから外れると客らしき男たちから何度か声が掛けられた。その都度、体よくあしらっていた半助であったが、次に声を掛けられた時、はっとして半助と名前は思わず目を合わせた。

「お嬢さん方、旅の者かい?今宵の宿はお決まりかい?」

そう声を掛けてきた男は忘れもしない。
名前がこちらへ来たあの日、山で襲ってきた盗賊の首領であった。
半助と名前を旅の者であると見て取ったのであろう。
年は四十近く、肌は浅黒い。親切そうな顔を作ろうとしているが、目の奥が怪しく光っている。
名前はあの時の事を思い出し思わず半助の着物の袖を掴む。
その様子を察し、安心しろとでも言うかのように半助は後ろ手で 名前の手を握った。

「いいえ、ご覧の通り宛もなく、いきなりの雨で惑うている所でございます。」

男が、にっと笑んだのを半助は見逃さなかった。

「それは、それは。内んとこ来てくれりゃ、待遇良くさして貰うぜ?」

普通、こんなに柄の悪い男になんて付いて行く事はまずないだろう。
しかし、土井先生は自分の手を握ったまま動こうとはしない。
ひょっとしたら、この男の元へと行くつもりであろうか。

「あら、それは助かりますわ。ところで、それは何と言う所ですの?」

半助は努めて品良く言う。
顔こそ華やかに笑んでいるが、抜かりなく周囲の気配を感じ取っていた。

・・・・三人、いや四人か。恐らく、抵抗しよう物なら容赦なく捕まえ連れていくのだろう。

「何で名前なんか気にするんでい?」


「あら、ごめんなさい?ただ興味でどんな名前なのかと思って・・・」

そう、半助は困ったような殊勝そうな顔をして見せる。どこからどう見ても艶がある女である。
男は納得したように一瞬少し目線を外し、良いカモを拾ったとでも言うように再び二人を見る。

「いや、良いさ。うちはな、三島屋ってんだ。ここらじゃ、ちょいと有名だぜ。」

別の意味でな、と男は下卑た笑みで笑った。
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