ようこそ学園へ 〜長編〜
□夜雨の闇
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謀らずとも都合が良い。
黒い傘をさして男は三島屋へ先導しいていたが、まさか後ろから着いてきている女がこんな事を考えているとは思いも寄らないだろう。姉妹だと、言われても疑う事はなかった。
一方で半助は周りの気配を確認しながら歩みを進めている。雨のせいなのか、恐怖に近い緊張からか、後ろ手で繋いでいる名前の手が先程から氷のように冷えて震えている。
後方を確認すると、どうやら前者と後者、両方ではないかと見てとれた。
夜気の中でも分かる程、顔は青い。
「 名前、大丈夫? 」
半助は、姉が妹を心配するように、ゆったりと訊ねる。
それに直ぐ様、男は反応した。
「姉さん、どうしたい?」
「はい、妹は体が弱いのです。雨に濡れて、また具合が悪くなったのやもしれません。」
半助の気転に感謝する名前であったが、これから置かれる己の状況を思うと何やら本当に目の前がくらくらする。
俯いたまま蒼冷めた顔の名前に、男は小さく舌打ちをして覗き込むように近寄った。
恐らく使い物になるかどうか、その辺りを思案したのであろう。
暫く無言で見ていたが、何も言わず再び先導しはじめた。
・・・・多少、体が弱かろうが、こんな上玉は滅多にお目に掛かれねぇ。それも二人だ。折角、ここまで連れて来たんでい。逃がしゃしねぇ。
そう思い、ふと男は立ち止まった。
「おめぇさん、どっかで会やしねえかい?」
その視線は半助を通り越して名前へと注がれている。二人は一瞬どきりとしたが、やはり半助が気転を利かし話しをそらす。
「あら、どちらでしょう?こんなに男前な方なら覚えていそうな物だけれど・・・」
艶っぽく言ったが、半助は内心嘔吐し悶えていた。
・・・・っだぁ!気持ち悪い!
しかし全ては、これからの仕事の為である。
それに気を良くしたのか男は、満更でもなさそうに名前を気遣う素振りを見せて上機嫌で再び前を歩く。