ようこそ学園へ 〜長編〜

□夜雨の闇
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三島屋と書かれた大きな看板は今は雨に濡れている。
店先では十人余りの女が雑多に並べられ木檻のような場所に入れられていた。中には、客らしい男を手招きする女もあり、朱塗りの柱越しの風景は明らかに妓楼のそれであった。
しかし半助と名前はここが何だか分からぬ振りをして店内へと従い入って行った。

「おめぇさん達は、どっから来たんでい?」

妓楼を知らない箱入り娘だろうか。
抵抗されれば周りに潜んでいる手下共に押さえ付けさせようと考えていたが、この二人は抵抗する事もなく入って来た。その為、少々不振に思い男は訊ねる。

「・・・・私達はもともと京に住んでおりました。」

「ほお、するってぇと公家のお姫さんかい?」

昨今は小さな公家等では合戦やら強盗やらで多く潰れてしまったと聞いた事がある。
それに素性を訊ねるにしても位の高い方が女も気持ちが良いだろうという腹積もりもあった。

「・・・はい。とは言え、私達の家は下級の位で父が亡くなってからは更に暮らしぶりが悪くなりまして・・・。やむを得ず、これから武蔵の国の縁者を辿る最中にございます。」

ウソ八百である。
半助は物悲しげな風を装おう。
しかし、男は心得たようににんまりと笑った。
公家の娘は世間知らずと相場が決まっている。
面白い娘たちを拾った物だ、と悟られないように再びニヤリと笑った。
そして二人を入口脇の板の間に上がらせ、自分は何やら奥の方へと入って行った。

「 苗字さん、本当に大丈夫ですか?」

半助は周りに気配がない事を確認して、名前の様子を伺った。
燭台の光の中で見る、名前は暗い夜道で見た時よりも一層、蒼冷めており心配になった。

「・・・はい。大丈夫です。ちょっと、緊張してますけど」

名前は心配かけまいと笑顔で言うが、その笑顔が痛々しく、半助は胸を握り潰されるような感覚に陥った。
無理をするな、と叱ってしまいたくなったが、彼女に無理をさせているのは自分である。そんな自分に笑顔を向ける彼女の優しさが嬉しくもあり切なくもあり何ともやるせない思いでいっぱいになった。
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