ようこそ学園へ 〜長編〜

□廓の小鳥
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案内された部屋は、店の一番東の部屋で、やはり狭い部屋であったが五人部屋だと言う。
今は皆、仕事の最中なのか、着物やら化粧具やらが雑多に置かれているだけで部屋の中には誰も居なかった。
部屋へと入るなり、中年の女が口を開く。

「あたしはここで目附役をやってる、お辰ってんだ。あんた達。ここへはなんと言って連れられて来たか知らないが、ここは妓楼だ。明日から、さっそく下働きとして働いて貰うよ。」

半助たちの言葉を聞く気は無いようで、それだけ言うと、重労働でもしたかのように大きなタメ息を一つ付いて去って行った。
足音が聞こえなくなったのを確認して、半助は名前をそっと降ろした。
いつのまにか微かな寝息を立てている姿は病人その者である。手首の辺りに触れて脈を確認し、荷の中に入れておいた薬を椀に入れて調合する。
起こすのは少し憚られたが、肩を叩くと思いの外早くに覚醒した。

「・・・ど、い・・・、お姉さま?」

咄嗟に呼び方を変えたが、半助が周りに人気がない事を伝えると、幾分かほっとしたように笑んだ。

「 苗字さん、これを飲んでください。」

椀に入っていた粉を懐紙に移しながら竹筒と共に渡す。
苦そうな薬を受け取り、名前は、またかといった感じで、ふふっと笑った。
どうしたのかと、半助は少し眉を上げて名前の顔を見る。

「土井先生はいつも苦そうなお薬ばかり下さる。」

顔色は良くないが、いたずらめいた瞳が笑っていた。その様子に半助も幾分か安心し、生徒に話すような口振りになる。

「良薬口に苦し、だ。ちゃんと飲んでくれよ。それが飲めたら団子をご馳走するから。」

「私、子供みたいですね。」

「苦い薬が嫌だと言うのは子供だ。」

女の姿で胡座をかいて半分笑いながら言う半助に、名前もまた苦笑しながら、竹筒の水で薬を喉の奥へと流し込む。
苦味と何とも言えない青臭さに 名前はやはり涙目になっている。
そんな姿に目尻を下げていた半助であったが、遠くで足音が聞こえ、さっと居住まいを正した。

戸が開くと、そこには遊女らしい人物が一人立っていた。年格好は恐らく同じ頃であろうか。
女は誰も居ないだろうと思って開けた部屋に、人が居り驚いている様子であった。

「あれ?あんた達、新入りかい?」

半助たちが答えないでいると、女は鏡の前で腰を下ろし、白粉を厚く塗り紅を掃きながら一人で淡々と喋り始めた。
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