ようこそ学園へ 〜長編〜
□廓の小鳥
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「売られてきたか、かっさらわれて来たか知らないけど、ここから逃げようなんて思わない方が良いよ。」
女は鏡から離れ、半助と名前の近くに座り直した。そしてこちらの反応を伺うようにして身を乗り出す。
半助は暫し考えながら口を開いた。
「何故ですか?」
「この部屋には元々、五人の女が居たんだけどね。ついこの前、突然二人も消えちまったんだよ。」
「え?」
「他の部屋でも同じように一人、二人消えてて、ここにいる女達の間じゃ殺されたんじゃないかって話し。」
「殺された?」
「そう、ある日突然居なくなるんだ。私もここへは売られてきてまだ半年だけどね。ここで二年以上働いている女は居ないんだよ。」
逃げようとしたり、客と一悶着起こした女から居なくなるのだそうだ。しかし、この廓にいる女達の姿は二年以内には必ず忽然と消えてしまうらしい。
黙って話しを聞く半助と名前が恐怖していると思ったのだろう。女は慰めるように話題を変えた。
「けどねぇ、身請けしてもらえる場合もあるしねぇ。」
「身請け?」
聞き慣れない言葉に名前は反芻する。
女はそんな事も知らないのか、といった風に少し驚きながらも答える。
「身請けってのはね、馴染みの客が金を払って遊女を自分の奥方か妾にする事だよ。まあ、早々あるもんじゃないんだけど。」
それが良い事なのかどうか、名前は今一ピンと来ず首を傾げる。
半助はと言うと黙ったまま先程から何か考えているという様子であった。
女は二人の様子など気にもせず、半ば夢見がちに話しを続ける。
「でもね、この部屋にいる娘も最近入ってきたばかりなんだけど、早々と良い客を捕まえてね。近いうちに、お武家さんに貰われてくんじゃないかねえ。」