ようこそ学園へ 〜長編〜

□潜む闇
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「水野さま、お帰りなさいませ。」

水野景元は三の丸にある屋敷へ戻ると、門の内に待ち構えたように立っている人影を見た。
灯明の光を頼りに目を凝らすと、己の側近である従者が出迎えているようであった。労いの言葉とは反対に態度は横柄なもので、腕組みをしたまま不貞腐れている。
どうやら主人が供も連れずに、こんな夜更けまで出掛けていたのが余程、気に入らないらしい。

「ああ、数馬か。今、戻った。」

そんな側近の心を知ってか知らずか、景元は表情を変えずに、坦々と返す。

無礼を承知で怒気を態度に出している数馬というこの従者。それに気分を害した風でもなく、全くお感じないらしい主の姿に更に苛々とする。

「こんな、夜更けにどちらまで?」

「件の三島屋へ参っていた。」

「やっぱり!」

自分にも行き先を伝えずに出掛けてしまった主を恨めしい思いで見やり、大袈裟に言うと数馬は捲し立てるようにして続けた。

「これだから嫌なんだ!だから忍を雇いましょうと申し上げているではありませんか!水野様、御自ら斯様な場所に赴く必要はございません!」

「しかし、事が事だ。秀頼様のお命にも関わる。」

景元とて忍を雇いたい所ではあるが、領地に乏しく、しかも領主の代替えがあったばかりの城の財政は逼迫している。下忍であれば雇えるかもしれないが、一城の命運がかかっている。とても任せられるような物ではない。

「そうは申されますが、水野様に万が一の事があればと思うと・・・。いまの東雲城にとって水野様が無くては城が立ち行きません!」

現城主はまだ十三才である。
元服が済んでいるとはいえ、一国一城の主という肩書きは荷が重すぎる。
故に、今は亡き先代の城主から大抜擢とも言える昇進が為された景元が、実質政治を執り行う事は周囲の望みでもあった。
無論、満場一致しているわけではなく、中には反対の者もいたのだが、一番は秀頼の強い要望による所が大きい。
しかし波紋は思いの外、大きかったのかもしれない。

そして、標的となったのは景元ではなく、城主の秀頼であった。
暗殺を目論む者がいるのだ。

秀頼の父 勝頼が亡くなってからと言うもの、その身には偶然とは言い難い不幸が幾度となく降りかかっている。
時に食事の中に毒が混ざっていた事もあった。

梅の種の中身を仁と言う。
この仁を使って調理する物の中に青梅のそれが混じっていたのだ。
梅の中でも青梅は中毒を起こし死を招く恐れもある。不幸中の幸いで、秀頼は口にしてしまったものの、ごく少量であった為、死には至らなかった。
こうして犯人を突き止めるために、内々で調査したところ、ある人物の名前が浮上した。

それは一門衆の立場にある秀頼の叔父であった。
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