ようこそ学園へ 〜長編〜

□花の香り
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(・・・やはりな。南蛮寺の方角に蹄の跡が残っている)

町や里からはだいぶ離れ山道の中を駆けながら半助は思った。
昨夜の嵐が不幸中の幸いと言えようか。ぬかるんだ土が馬の蹄の跡を残していた。
忍装束は水気を充分に含み重く体温を奪っていたが、そんなことはどうでも良かった。

あの時、まるで唸るような風の音と共に三島屋もまた騒然としていた。
半助は立ち向かってくる下郎達を始末し終え、急ぎ 名前の元へ 駆け付けたが既にその姿は無かった。
泣き崩れる唯を見た瞬間、全て過ぎてしまった後だと悟ったのだった。
落胆する心を制し、名前を一刻も早く連れ戻そうと追いかけて来た。

不意に気を取られ全てを台無しにしてしまった責任は己にある。
何とか逸る気持ちを律しようとするが気ばかりが急いてしまう。

( ・・・・・名前 )

ふと暖かな笑顔を思いだし、ぎりっと奥歯を噛んだ。
知らない世界に放り込まれながらも健気に生きようとしていた 名前を危険な目に合わせてしまったのだ。
守ってやれなかった悔しさが拳に滲んだ。

(・・・・無事でいてくれ)

白み始めた空を見るとも無しに半助は駆ける足を一層速めた。
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