ようこそ学園へ 〜長編〜
□手繰る想い
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「・・・・あの」
あなたは誰かと尋ねようとしたが何となく、心の何処かでそれは言ってはいけないような気がして名前は口をつぐんだのだった。
しかしその瞬間、背に回されていた腕がぱっと離された。
名前がやんわりと抗議していると思ったらしかった。
「・・・・こ、これは・・・その・・・!決して疚しい事を考えていた訳ではなくて!」
両手は浮いたまま固まっている。
青年の頬に朱がはしり、どうしたら良いのか皆目分からないといったような困惑顔である。
しかしそれも僅かの間で直ぐに自らを立て直す。
「こほん。あー。そのぉ、無事で良かったという事だ。」
うんうんと自分で頷きながら納得させようとしているらしかった。
しかしやはり名前の反応に不安に思うところがあるらしく、また一つ咳払いをしながら横目でチラリと様子を伺うと目と目が合ったのだった。
お互い小さな気不味さを感じ、視線を外すがやはり何だか落ち着かない気持ちであった。
「・・・えっと。私・・・・。」
(知っているような気がする・・・)
再び記憶を辿ろうとし、不意に鈴の音がした。
頭の中で鳴っているような不思議な感覚である。
俄に霞むような鈴の音が脳内で響き始め、それは次第に指し貫くような高音へと変わっていった。
甲高い金属音のようなその音に邪魔にされると、そこから先へ思考は進められなかった。
名前は更に大きくなる音量に眉根を寄せ今までに感じた事のないような苦痛に耐えた。
(・・・・・・痛っ)
一向に鳴り止むことは無く、目の前の景色がぐらりと崩れるように名前の体から力が抜けて行った。
「名前!?」
突然の異変に驚いた様子の青年に抱きかかえられたのを感じたが最後、名前の意識は宙に飛んだのだった。