月の沈む刹那の間に 〜短編〜
□夜明けの頃 1
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名前がいる部屋から声がする。名前の笑い声ともう一人。
どうやら、やはり先客が居たようだ。
息を殺し、ピッタリと壁に背中と耳を付けて中の様子を伺う。
すると聞こえてきた声の主は、良く見知った人物だった。
「 名前さん、生命線が短いですね 」
「え!ほんとですか?」
障子戸の隙間から覗き見ると、部屋には 名前と利吉の二人きりである。
手相を利吉が見てやっているらしい。
楽しげに話している二人を見ると、何やら胸の内から醜い感情が顔を出す。
半助は二人の間に割って入りたいという衝動を抑えて、再び壁に沿いひたすら聞き耳を立てる。
「ほんとです。ほら、ここ」
思わず再び覗き見る。
すると先程より一層、二人の距離は近くなり頭同士が触れるほどになっていた。
半助はさすがにもう見てはいられず来た道をイライラとしながら引き返す。
・・・・利吉くん、いつの間に 名前さんと仲良く・・・。
恩人でもある、山田先生の息子さんで付き合いは長く親近感はあるのだが、それとこれとは別である。
・・・・ま、まさか、私の知らない間に二人は既に良い仲なのではっ!?
ふと立ち止まった。頭を金槌で殴られたような衝撃を受けて、半助は持っていた問題用紙をバサバサと落とす。
確かにお似合いの二人だ。
私は何を一人で浮かれていたんだ・・・。
そう考えると、只虚しくなるばかりである。先程までの焦燥は消え失せ項垂れながら自室へと戻って行った。