月の沈む刹那の間に 〜短編〜

□果てない呪縛1
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気持ちの良い朝に気分を害され、半助はやや膨れっ面で畦道を歩いていた。

風呂や釜で使う薪がもう無くなりそうだった為、気分転換も兼ねて近くの山中に柴を刈りに入くのである。

「やれやれ・・・・」

昨今は戦も激戦となっており、薪一つにしても高値で売買されているのだ。

「・・・・・嫌な世の中だな」

一つ溜め息を落とし半助は一人ごちた。
林道を分け入り、ふと行く先の道に何やら人影らしきものを見つけ目を見開いた。
どうやら地に突っ伏して行き倒れているようだった。
少年のようであり遠くからではその生死は分からなかった。
急いで少年の近くへと駆け寄り、側で膝間付くと胸に耳を当てて鼓動を確かめる。

(・・・・まだ息はあるようだな。)

己よりも年若い人間の死を目撃してしまうことほど悲しい物はない。
半助は少年が生きていることに胸を撫で下ろしながら、体を支えるようにして起こしてやった。

「聞こえるか?」

軽く頬の辺りを叩き、何度かそうしてやっているうちに少年の目はゆっくりと開かれた。
焦点がまだ合わないのか、どこか朧気な視点であったがその瞳は澄んでいた。

「大丈夫か?」

「・・・・」

「どこか痛む所は?」

「・・・・・」

まだ覚醒しきれていないのか、それとも返答できないほど体力を消耗してしまっているのか、ぼおっとした様子である。
少年は何度かゆっくり瞬きを繰り返し何か考えた様子であったが再び目を瞑ってしまったのだった。

「おいっ!」

一瞬、死んでしまったのではないかと慌てて声を発したが、どうやら眠りに落ちたようであった。

見れば苦労してここまで来たのであろう事は明らかであった。
頭の後ろで結ばれている髪は解れ、顔は泥だらけ、身に纏う衣服もぼろぼろである。
どこぞで戦禍に巻き込まれたのやもしれない。

ふと幼い頃の自分を思い出した。
あの時、師匠に拾われ介抱されたように、今度は自分が師匠と同じようにこの少年を介抱するのか。
そう思うと半助は何となく縁を感じたのだった。
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