龍が如く維新夢

□恋心
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私には好きな男性がいるのです


でも…その方は…いくら私が恋い焦がれても……


手が届かないお方……









ー恋心ー









「はふ………」


「どうした名前君、用がないのなら無駄に見つめてくるのをやめてくれないか」


「………はい」


私の恋心のお相手は、今日も冷たい視線を私に向けて、すぐに前を向いてしまう。

そんな私達に、他の新撰組の方達は苦笑したり呆れた溜息をついたり、それぞれの反応をしてくれる。

私はしょんぼりしながら、土方さんの斜め後ろからさらに後ろに下がって正座した。

土方さんは私の様子を目だけで追うと、すぐに他の新撰組の方達が座っている前へと視線を戻してしまう。

今は皆さんで大事な幹部会の最中だから…土方さんのお世話係りの私は、今はいるようでいないような存在でいなければ。

土方さんが用を申しつければすぐに動けるようにしながら…でも大事な話しは聞かないように配慮しなければならない。

だって、私はただのお世話係りだから。

必要以上の新撰組の方達の情報や作戦なんかは私は聞いてはいけないのです。


「話しが中断してしまったな、続けるが…」


土方さんはまた淡々と他の新撰組の方達に話しだした。

私は床に落としていた視線を土方さんの背中に向けた。


(大きな背中だなぁ…でも…いくら私がこの背中に抱きついてみたくても…そんなの夢のまた夢……)



大きくて、頼もしい背中…大好きな男の人の背中……。


私は胸が苦しくなる思いを、毎日毎日繰り返しているのです…。





片思いとは…なんて苦しくて…切ないのでしょう





「…名前君、聞こえているのか?」


「…………え?」


「…資料をよこしてくれないかと何度も言っているのだが」


前を向いたままの土方さんから、少しだけ有無を言わせぬような声色が発せられた。

私はさーっと血の気が引いた。

ぼーっとしていて、土方さんを無視してしまったような状況になっていたからです。


「す…!すすすすみません!只今!!」


私は自分の横に用意しておいた、なんの資料かも知らされていない(私なんかが知る必要がないような重要な物)紙束を急いで手に取り、土方さんに渡そうと正座していた足を立たせた。



……けど




ツルッ!!



「うきゃ!?」



どさぁっ!!





……なんて私は鈍臭いのでしょう。

何が悲しくて、

私は…土方さんの背中に倒れこんで、あろう事か…なぜ




土方さんを潰してしまっているのでしょう





「……………」


「ぶふ…っ!」


沖田さんや藤堂さんらしき吹出したような声がした気がして…他の方達は無言。

資料が床に散らばって、まるで紙の海みたいになって…

私は…あまりの出来事に…土方さんの背中の上で放心状態になってしまって動けません…。


「……大丈夫か土方、名前」


斎藤さんが、散らばった資料を集めてくれている。それを井上さんも手伝っている。

私は…やっと意識がはっきりしてきて…顔と身体が真っ赤に染まった。

そして…土方さんの背中に…恐る恐る…問いかけた。


「……ひ、土方さん…た…大変…も、申し訳…ありま…せん…大丈夫…ですか…?」


「………………」


大きな背中が、ゆっくりと上がり…自然と私の身体も起き上がる。

真近で見上げる大きな背中に、私の頬は真っ赤に火照った。



(あんなに全体重でのし掛かっていたのに…さすが土方さん……)



感心している場合じゃないのに、私はときめいてしまった。


「………気をつけたまえ、次に同じ事をしたら…わかっているな?」


「は、はい…!勿論です!大変申し訳ありませんでした!」


鋭い視線で上から見下ろされ、私は土下座して誠心誠意謝罪しました。

斎藤さんと井上さんから資料を受け取り、何回もお礼を申し上げ、それを土方さんに渡す。

土方さんは小さく溜息をつきながら座り直した。


「土方さん大丈夫ですか?まあ、名前は軽そうだから大丈夫でしょうけど」


藤堂さんがおかしそうに笑いながら土方さんに言うと、土方さんは「問題ない」とだけ返事をした。

ほ、本当でしょうか…重いとか思われていなかったでしょうか…。


「怪我とかしとらんか、名前」


「わ、私よりも土方さんが……っ」


「阿呆、われは誰の心配しとるんや」


永倉さんが心配してくれ、それに私が首を横に振ると武田さんが呆れたように呟いた。

私は武田さんの言葉にはっとしました。



そ、そうですね…相手は新撰組の二番目にすごいお方なんですもんね…。

私みたいな小娘がのし掛かったくらいで怪我なんてしないですよね。

少しだけ…安心しました。


「あ〜、でも面白いもん見たわ〜」


「総司」


「へいへい」


沖田さんがにやにやしていると、土方さんが沖田さんを睨んだ。


(や、やっぱり怒ってらっしゃいますよね…うぅ…でも…なんだか皆さんの空気がほのぼのとしているように感じるのは…私の気のせいでしょうか…?)


いつもはピリピリとした緊張感のある幹部会の席が…今は皆さんお互いに少し笑いながら、私の失態についてお話ししています。

なんだか…皆さん楽しそう。


「……まったく、君のせいで仕切り直さなくてはいけなくなったな」


「え……」


いつもよりどこか優しい気がする土方さんの声に、皆さんから土方さんに目線をうつすと…






土方さんが…気のせいかもしれないけれど




いつもより優しい眼差しを…私に向けていた気がしました…///










(気のせい…ですよね…?///)
2014.5.31

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