龍が如く維新夢

□勝ち組
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*性的表現があります、苦手な方や18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください
大丈夫な方はスクロールをお願いします(^^)↓
















「へへへ…名前ちゃんよぉ…今日も頼むで……」


「……………」


骸街の粗末な一角の小屋。

そこが私の今の所の寝床だ。

戸なんてものはなくて、古びた布を一枚目隠し用に垂らしただけの入り口から下品に笑いながら入ってきた薄汚い男は私を押し倒し、私の首筋をぴちゃぴちゃ舐め回した。

獣以下に興奮した男は私の両脚を左右に割り、下半身を私の秘部に擦り付ける。

私が艶めかしく身体をくねらせ息を漏らすと、男は息を荒げ益々下半身を擦り付けてきた。


「あぁ…っはぁん…いや…っ」


「ハァ…ハァ…!たまらんのぉ…もっと乱れろや…!」


「あぁ…っ!」


男に乱暴に服を乱され、露出した乳首に汚らしく吸い付かれる。





幼い頃、私は両親に道端に捨てられ、ここ骸街に来た。



しかし幼い私に骸街で生きるすべなどわかるはずもなく…幼い身体は、女というだけで男達の性の対象となった。

月日が経つ程に美しく成長する私に、男達は益々私を欲し、夢中になっていった。

しかし…ここで女の私が生きるにはこうするしか方法がなかった。

拒めば即、殺されて捨てられるだけだから。


「ヒヒヒ…綺麗やのぉ…ほんまに名前ちゃんを抱いてる時だけやぁ幸せなんは…っもう入れるでぇ…!」


「はぁん…!あ…っ!」


膨張した性器を取り出した男は、ろくに愛撫もせずに私の中に性器を挿入する。

そのまま激しく腰を振るから、私は床を爪で引っ掻きながら喘いだ。


「あっ!あぁっ!やぁっ!」


「おぅっ!たまらん…っ!締め付けが最高や!」


下品に笑いながら腰を振る男を睨み上げながら…私は誓った。





必ずこんな場所から抜け出して…権力も、金も、強さも、気品もある男と一緒になり



勝ち組になってやると










ー勝ち組ー











「……上々といった所かな」


四条通りを私が歩けばすれ違う男達は皆熱く私を見つめてくる。

何人にも声をかけられ、その度に私は艶やかに微笑んでやんわり断るの。


「あ、あの…お嬢さん、よければ今から私と飲みに行きませんか?」


ほら、まただ。


「ごめんなさい、用があるので」


「そ、そうですか…また見かけたら…声をかけても宜しいでしょうか?」


「ふふ、はい」


「…………///」


私が少しお辞儀して歩き出すと、男の人はまだ私を遠くから見つめて顔を赤くしていた。

私が昨日まで骸街に住んでいた女とも知らずに。

私はいつか骸街を出る時の為にこつこつと準備をしていた。

綺麗な着物や身につける小物、金銭、化粧品…。

骸街で手に入れるのは難しい物ばかりだけれど…時折、できる精一杯の小綺麗な恰好をして骸街の外に出てなんとか手に入れたものだ。

今日初めて身に付けたのだけれど…なかなか似合っていると思う。

その証拠が男の人達の反応だ。


「さぁ…早く祇園にいきましょう」


お金を持っていて権力のある男が集まるなら祇園。

四条通りを歩いている男なんて眼中にない。

私は迷いなく祇園への道を歩き出した。









「べっぴんやなぁお嬢さん!どう?うちの店で働かないか?」


「ごめんなさい」


祇園に着き、料亭の前で立っているとここでも頻繁に声をかけられる。

私は料亭に入っていく人や出てくる人を観察していた。

料亭に入る人に貧乏人や格下の人はいない…それなりか、それ以上の人間しか入れない。

暫く注意深く観察していると…一人の男の人が出てきた。


「………あ」


その人は、黒い着物に身を包み、髪を後ろに流した…とても整った顔立ちの男の人。

眉間に寄った皺が少し怖いけれど…私はこの人が普通の人ではない事がすぐわかった。

威厳というか、風格が…人の上に立っている男の人なんだと思わせる。

権力、金、強さ、気品…すべて持ち合わせていそうだ。

私はまさに理想の人だと思った、勝ち組になるにはこんな人と一緒にならなければ。

腰に差した刀…武士?

私はその人に話しかけた。


「あの、少しお時間よろしいでしょうか?」


「……何の用だ」


低音の渋い声に、私は胸が高鳴った。

腕を前で組んだまま私を見下ろすこの人…私を見ても表情を崩さない。

私はこんな男の人は初めてで、少し戸惑った。


「えっと…用というか…一緒にお食事でも…どうでしょうか?」


「…………」


男の人は私をじっと見据えると眉間の皺を深くする。

なんだかすべてを見透かすような目に、私は思わず視線を下に向けた。


「身売りの女は好かん」


「……え」


ど、どうして私が身売りをしていたとわかったのだろう。

私が戸惑っていると、男の人は鼻で笑った。

見下したような…気に障る笑い方。


「骸街で身売りでもしていたのだろう?臭いでわかる…身体を洗った程度では落ちない…あそこ独特の臭いがな」


「臭い……」


私はそんな臭いがするのだろうか…骸街の臭いは大嫌いなのに…私自身からあんな臭いがするなんて…。

私はなんだか悔しくて、泣きそうになりながら香水を取り出し、それを多めに身体に振りかけた。

そんな私の様子を、男の人は表情を変えずに見ている。


「どうです?臭い、消えましたか?」


少し躍起になりながら男の人に問うと、男の人は私に背を向けて歩き出した。

私は逃がさまいと急いで後について行く。


「消えたが少しは量を加減しろ、無駄に男を誘うぞ」


「………?いい香りになったという事ですか?」


「さあな」


男の人の広い背中はどんどん遠ざかり、私は早歩きで彼について行くのがやっと。

私が後ろからついて来ているのはわかっているはずなのに…もう少しゆっくり歩いてほしい。


「待ってください、歩くのが早いです」


「なぜついて来る、君と食事など私は承諾していない」


確かに彼は承諾していないけれど…私だってここで簡単に引き下がれない。

もう骸街には戻らない…戻りたくない。

私は権力も、金も、強さも、気品もある人と一緒になり勝ち組になって…幸せになりたいの。

だから、折角見つけた魚を逃がしたくなんかない。

必ずこの人に気に入られてみせる。


「私もこちらに用があるのです、どこに行こうと私の勝手です」


「減らず口か…いい度胸だ」


男の人は少し私を振り返り、鼻で笑う。

この人…こういう笑い方しかできないのだろうか?

私が男の人を見つめていると、不意に男の人が空を見上げた。


「雨か」


「あ……」


ぽつりぽつりと灰色の空から雨粒が降ってくる。

男の人が近くの店先で雨宿りを始めたので、私も隣で雨宿りをする。

男の人が腕を前で組みながら私を横目で見下ろしてくるから、私はわざと華やかに微笑んでみせた。


「突然の雨って困りますよね」


「……………」


ついに無言を貫く事にしたのか、男の人は少し雨で濡れしまった髪を手でかき上げる。

なんとも色っぽいその仕草と横顔に…私の頬は赤く染まった。


「あの…貴方のお名前は……あ」


男の人の名前を聞こうと開いた口は、目の前の信じられない光景に閉じられてしまった。


「汚ねぇ犬だなぁ!ははは!」


「どっか行け!!」


「キャヒン!!」


薄汚れた野良犬を、大の男三人が容赦無く蹴る光景……。

恥ずかしくないのかあの人達は。

気付けば私は雨の中に飛び出して、野良犬を蹴っていた男の背中に体当たりしていた。

その隙に野良犬を抱きかかえ、私はその場から急いで逃げようとしたけれど、男が血走った目で私の腕をおもいきり掴んだ。

痛みに、私は顔を顰める。


「痛い…っ!離して!」


「何すんだこの女ぁ!ぶっ殺してやる!!」


男の拳が私の顔めがけて飛んでくる。

反射的に目をつぶるけど、頬に痛みはなく……代わりに男の汚い悲鳴が聞こえた。


「ぎゃあぁぁ!!やめろやめろ!折れるぅ!!」


「このような腕、折れても支障はないだろう」


目を開けると…そこには私を殴ろうとした男の手首を捻り上げている彼がいた。

野良犬を抱いたまま呆然とその光景を見上げる私の耳に、他の二人の男の焦った声が聞こえた。


「やべぇ!新撰組の土方だ!に、逃げるぞ!!」



新撰組の…土方?

この人は……土方さんという名前なのね?



「逃げたか…おい、大丈夫か」


「は、はい……ありがとうございました…」


一目散に逃げ出した男達を冷ややかに見ていた土方さんが、地面に座り込む私に手を差し出す。

土方さんの手をかりて立ち上がると、腕の中の野良犬が私を見上げて甘えた声を出した。


「クゥ〜ン、クゥ〜ン」


「ん?ふふ、ありがとうって言ってくれてるの?」


尻尾を振り、私の頬を舐めてくる野良犬の頭を撫でる。

嬉しくて、思わず土方さんの顔を見て笑う私に…土方さんは初めて何処と無く優しげな眼差しで…私を見てくれた。



(あ…こんな目もできるだ…///)



頬を火照らせた私は、野良犬をぎゅっと抱き締めた。

今、土方さんはどんな気持ちで私を見ているのだろう。

さっきまでとは違う、その優しげな眼差しは…何を意味しているのだろう。


「もう少し後先を考えて行動しろ、死んでいたかもしれんぞ」


「クゥ〜ン、クゥ〜ン」


「…犬で誤魔化すな」


また眉間に皺の寄った顔に戻ってしまった土方さんに野良犬を近付けると、ペロペロと土方さんの頬を舐めた。

そんな土方さんと野良犬の組み合わせがなんだか可愛いくて、私はくすくす笑う。


「この子も、土方さんにありがとうって言ってるんですよきっと……本当に、ありがとうございました…怖かったです」


「…………ああ」


野良犬を地面に降ろして土方さんに抱きつくと、土方さんも少しの間を置いて私を抱き締めてくれた。


「キュゥン?」


野良犬が不思議そうに私と土方さんを交互に見て首を傾げる。




身体を打つ雨が激しくなるのも気にならないくらい、土方さんの腕の中は心地良かった…












あの日から一ヶ月が経った。

私は今…近藤勇さんの付き人となって充実した日々を過ごしている。

今日は近藤さんが久方振りに屯所に出向くらしい。


「名前も歳に会うのは久しぶりだなぁ、嬉しいか?」


「はい、勿論です」


「ははは!そうかそうか!久しぶりだからって俺の前で見せつけねぇでくれよ?」


「ふふ」


冗談混じりに笑う近藤さんに私も微笑み返し、近藤さんの自室で待っていると……。


「お久しぶりです、局長」


「よう歳」


愛しいあの低い声と共に…愛しい人の姿が現れた。

私と目が合うと…土方さんはほんの少しだけ…口の端を上げた。


「久しぶりだな…名前」


「………っはい」


思わず土方さんに駆け寄り、その広い胸に抱きついた。

強く抱き締め返してくれる土方さんが…私にだけ聞こえるくらいの小さな声で…「会いたかった」と呟いてくれる。

嬉しくて、幸せで。

私は微笑みながら、涙を流した。






私はその時、確信したの

これまで暗がりにいた人生に、終止符が打たれたのだと

これからは、この人と共に生きて…幸せになるんだと

初めは勝ち組になりたいが為に、権力や金、強さ、気品とか…歪んだ目で土方さんを見ていた

けど…本当の勝ち組というのはそんなのじゃなくて…相手を心から愛しいと思い、そして、自分も思われる事

この人といられれば幸せだと思える人と出会い、結ばれる事







それこそが、本当の勝ち組だったんだ












2014.6.19

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