野球

□憧れのふたり
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今日は交流戦の試合で、始球式にアイドルの男の子が来るらしい。
同い年、沖縄産まれでテレビとかネットで見たことあるくらいの男の子だった。
いざ検索して写真を見返してみると、さすがアイドルでかわいらしいなあと思うくらいだった。
広報さんに促され、始球式の前に一緒に写真を撮ることになった。
部屋に通されると、ふわふわの髪の毛にぷくっとした頬につぶらな瞳。
白っぽいダボッとしたパーカーと短パン、そして小さな背丈。
写真やテレビで見るよりはるかに可愛い男の子が立っていた。

「はじめまして!宮城大弥です。」
「…っ佐々木朗希です…」
やばい、生で見るとまじで可愛い。語彙力を失うほどに可愛いしか言えなくなって
顔が熱くなって目が合わせられなかった。
「僕、小さいころ野球やってたんです、佐々木朗希さんのことも野球を通して大好きなんです!いつも活躍拝見してます!」
「あ…ありがとうございます…」
「めちゃくちゃ背高いしスタイルいいしかっこいいですね…!」
「…(照)」
やばい、背丈のせいもあるけど、きらきらとしたつぶらな瞳で上目遣いで見つめられて、
ちょっと目を合わせると吸い込まれそうなくらい可愛いし自分のことを好きとかかっこいいだなんて言われて、昇天しそうなくらい嬉しかった。
目線を合わせたり外したりで泳いでしまって、ガチで照れてしまった。
広報さんにガチ照れしてることはバレてしまっているような気がする。
ニヤニヤ笑われながら、じゃあ二人で写真撮ろうかと言われた。
隣に立って、なにかポーズと言われたのでどうしようかと思っていると宮城さんが手を差し出してきた。え、これって…。
照れながらも、俺も手を出す。
一緒にハートを作って写真を撮った。
「じゃあ朗希が頭を優しく撫でてみようか」
広報さん、さすがに何言ってんすか…。
「いや、それはさすがに失礼…」
「いいですよぉ」
「えっ」
笑顔でこちらを見ていたのでおそるおそる頭を撫でてみる。
つやつやさらさらした頭を撫でると、ほのかにいい香りがした。
シトラス系の、爽やかな香り。
やばい、好き…。
写真を撮り終わって、ありがとうございます…。とお礼を言って握手すると、ふかふかの手の感触がしてにこっと微笑んできた。
やばー…かわいい…。


始球式も交流戦なので俺がバッターとして打席に入った。
う…マウンドに立ってにこにこしているピッチャーの宮城さんもかわいい…。
昔野球をやっていたこともあってか、なかなかの好投だった。
投げ終わって、一緒にまた写真も撮ってくれた。
試合が終わって、自分のピッチングも出来たし、満足した。
チームも勝利を挙げることもできた。
反省会も終わり、ロッカーに帰って自分のスマホを見る。
即座に宮城さんのSNSをチェックする。
「今日は始球式でした!試合前に佐々木朗希投手と。ご本人もプレーもめちゃくちゃかっこよかったです♪これからも応援してます!」と写真をアップしてくれた。
う、うれしい…。
どんだけ好きになってしまったんだ…と思うほどめちゃくちゃ気になって仕方なかった。
抜かりなくSNSをフォローする。
もう好きになってしまった勢いだ。というか好きだ。
本当に雰囲気も優しくてふわふわしていて、人から愛されるために生まれてきたようだった。

家に帰ってお風呂に入って上がってくると、
テーブルの上のスマホが通知で光っていた。
おもむろにそれを見ると「宮城大弥さんからフォローされました」と通知がきていた。
え!?は!?
マジで?偽物とかではなくて?
光の速さでSNSを開くと宮城さんのアイコンで、公式マークがついている…。
ま、まじか…。
フォロバしてくれてる…。
めちゃくちゃ感動していると、DMが届く。
「宮城大弥さんからメッセージが届きました」
え?え?えええ??
「今日はありがとうございました!試合前のお忙しいときにすみません。
お疲れ様でした。良いピッチングで勝ててよかったですね!
朗希さんのファンで大好きなので今日はお会いできてうれしかったです。
生でお会いして、めちゃめちゃかっこよかったです!これからも応援していきます!」
え、え…えええ…
めちゃくちゃいい子過ぎて可愛すぎて泣けてきそうなくらいだった。
どうしよ…なんて返そう…。
嬉しすぎて語彙力がなさすぎる…。
「こちらこそ、今日はありがとうございました!お会いできて僕も嬉しかったです。始球式、ナイスピッチングでした!めちゃくちゃ嬉しいです、これからも頑張るのでぜひ応援してください!」
はー…もう当たり障りのない返事で精いっぱいだけど、
あんな可愛い人が俺のこと応援してくれているなんて…。
わざわざDM送ってくれるなんて。
めちゃくちゃいい子だし、可愛い、一緒にそばにいたい、デートしたい…ご飯食べに行きたい…。
悶々とした想いを逃すことができない…。
今日は眠れそうもない。
また会えたらなあ…。




お互いSNSをフォローし合ってから日々の投稿にいいねしたり、コメントを送ったりして仲を深めていたように思う。
宮城さんも本業のアイドルの仕事があるし、日々忙しいと思うのに毎日の試合や、日々の動向を細かく見てくれて嬉しかった。
先日初めて会うまで彼がどんなアイドルでどんなグループに所属しているのかも知らなかった。
空き時間に色々調べていると、どうやらオリメンというアイドルグループの中のB-Cuteというユニットに所属しているらしい。
メンバーを見ていたら、確かにかっこいかったり、可愛かったりして顔面偏差値がすごいというか、みんなスタイルも見た目も良くて、その中でも宮城さんはかなりメンバーの中で愛されキャラというか可愛がられているようだった。
日々のSNSの投稿の中でグループ内のメンバーと仲良くしている様子が送られてくる
抱き合ったり、いちゃついたり、一緒にデートしたり…!?
アイドルとしてはこういう仲が良い系はファンは喜ぶのかもしれないのだが宮城さんが可愛くて大好きな自分としては負けたくなかった。
SNSでただフォローし合ってるだけの関係なのに、同じ土俵にも立っていないと思うが
絶対に宮城さんの一番になりたい…!仲良くなりたい…!と日々闘志を燃やしていた。
根気よく宮城さんの動向をチェックして、自分の存在をなるべく自認してもらうよう、アピールするようにでもしつこくならないようにそっといいねを繰り返したりコメントを入れたりした。
野球はもちろん頑張って好きになってもらえるよう努力した。
宮城さんは調子がいい時もコメントしてくれたが、良くないときにも欠かさずいいねやコメントをくれてなんて良い子なんだと日々胸をうたれて、応援してもらい続けるためにも、もっと野球を頑張らなきゃ…と思うのであった。


ある日、宮城さんからDMが届いた。
え?!宮城さんからなに!?すぐさまDMをみると
「いつもいいねやコメントありがとうございます!朗希さんが良ければなんですが、LINE交換しませんか…?」
マジか、まさか宮城さんから、そんなお誘いをしてくれるなんて。
「もちろんです。よろしくお願いします。」
すぐに返信をして、LINEを交換した。
LINE交換をしてからは、おはようからおやすみのごとくこちらは試合や練習が終わったとか、遠征先の様子とか、こんなものを食べたとか日常の何気ない報告をした。
宮城さんもレッスンやこんな仕事をしたよと連絡をくれた。
恋人同士が日常の会話をしているかのごとく、会話を楽しんでいた。
宮城さんと話せることがとても嬉しくて。毎日楽しみにしていた。
ある日宮城さんが
「同い年だし、敬語やめましょう?」と宮城さんが言ってきた。
「わかった、じゃあヒロヤ?」
勇気を振りしぼって調子に乗ってみたら「いいね」と反応が来た。
どさくさに紛れて下の名前呼び捨てゲット。嬉しすぎる。
「あのね、俺、ろーたんって呼びたい」
ろーたん。なんだその俺が彼氏みたいな呼び方は、可愛すぎる。
「ひろや」
「ろーたん」
文面だけで呼び合うとひろやからかわいいクマがクスクス笑ってるようなスタンプが届いた。
かわいい…。本当に愛されキャラというか、人の懐に飛び込むのがうまい。
可愛すぎて、ずっと一緒にいたい…。
「ろーたん、今度一緒にご飯食べたい」
ひろやからお誘いを切り出されて、マジかと自分の目を疑った。
「俺も行きたい!」
「焼き肉、好き?この前行って美味しかったところがあって、ろーたんと一緒に行きたいなと思ってた」
「大好き!行きたい」
「都合のいい日教えて?」
現実ではないみたいに、あれよあれよと御飯に行く日程が決まる。
この前初めて会ったばかりなのに。
会える日まで楽しみにしてたしドキドキする。
---
ご飯に行く当日、俺は約束している場所に車を走らせた。
都心を運転するのは緊張するけれど、ひろやにもうすぐ会えると思ったら全く苦ではなかった。
ひろやが予約しているというお店に着いた。
車を近くに停めて中に入る。
さすが芸能人御用達の店。めちゃくちゃ高級店そうだし綺麗でおしゃれだし。
いいお肉が食べられそうなことは間違いなさそうだ。
店員さんにひろやの連れということを伝えるとお待ちしておりました、と長い通路を超えて奥のまで案内される。
部屋に入ると、ひろやは既に個室で待っていた。
「ろーたん!」
すぐに近づいて、ひろやが抱きついてきた。
身長差があるのでちょうど自分の胸に飛び込んだ状態になる。可愛すぎるんだが。
これは、抱きしめていいのか?
恐る恐る軽く抱きしめ、頭を手を添えるように撫でると、嬉しそうに撫でた手に擦り寄ってくる。
かわいい。甘え上手の小動物みたい。
しかもいい匂いがする。
はぁ、SNSやLINEでやり取りはしていたけど、実際に会うのはこれで2回目で、こんなにかわいい表情を見せてくれて。
幸せすぎて現実か?と思う…。
「ろーたん、ここの焼き肉美味しいんだよ。いっぱい食べよう?」
「うん」
ろーたん呼びも甘えてるみたいでかわいいな。ニヤニヤが止まらない。
ひろやのおすすめ通り、お肉を注文して大盛りごはんも頼んでいっぱい口に運ぶ。
美味しい、めっちゃ美味しすぎる。
こんな美味しい肉は食べたことがない。
「わ、すごい。本当食べるんだね、野球選手って」
いっぱい食べる俺を見て、ひろやが嬉しそうに微笑む。
「ろーたん、今日はありがとう。なんかこの前会ったばかりなのにこうやってご飯食べれるの嬉しい」
「俺もほんとに嬉しい…こうやってまた会えるなんて…」
「ずっとろーたんのこと好きだったんだ、この前初めて会えて嬉しくて…」
嬉しい言葉をかけられて、信じられないような気持ちだった。
ひろやから色んな話を聞いた。
実家がそこまで裕福ではないこと、自分が家計を支えるためにアイドルになるよう頑張ったこと。
高校を卒業してからの進路について悩んでいた時に、俺の高校の時の試合を見ていたこと。
小さい頃に野球をやっていたこともあり、同い年で高校野球で投げている俺の姿に励まされていたこと。
「ろーたんは俺のかっこいいヒーローなんだよね。」
包み隠さず話してくれて、めちゃくちゃ嬉しかった。
「でもね、ろーたん」
「ん?」
「この前初めて会えて本当にかっこよくてもっと大好きになっちゃった…」
ひろやは赤くなった頬を両手で押さえてこちらを見てきた。
…。
はいぃ???
いや、あざとすぎる。
「ろーたんが良ければ…これからも、一緒にいたい、好きです…。」
恥ずかしさからか頬を赤らめて俺を見つめていたひろやが俯いてしまった。
そっとひろやの手を取って熱くなった頬を軽く撫でる。
「俺も、ひろやのことが大好き。一緒にいてください…。」
「ろーたん…」
ひろやの表情が綻んで笑みが溢れる。
頬を撫でて、身を乗り出して、テーブル越しにはじめてのキスをした。
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