野球

□ふたりの
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それはそれは懇切丁寧に抱かれた。
怖じ気ずく俺を宥めて、
俺が絆されて、
あちこち触られて、舐められて、舌を這わされた。
もう良いよって言っても、
やめてって言ってもやめて貰えず、
苦痛で苦しいのか、快楽で苦しいのか、
羞恥心なのか、歓喜なのか、
もう何もわからなくなって、感情も何もかもぐちゃぐちゃだった。
後半の記憶は曖昧で、
気付いた時には暗かった空が白んでた。
「……」
もう恥ずかしいし、泣きたいしで顔をあげられない。
「みやぎ?」
「……」
そんないかにも何かあった後ですよみたいな雰囲気で声をかけてこないで欲しい。
色々したのは、したけど、男同士だけど、変な声出たのは覚えてるだけに、恥ずかし過ぎて居たたまれなさ過ぎる。
布団に包まって、朗希に背を向ければ、クスクス笑われた。
なんで、そんなに余裕そうなの、コイツ。
はじめっから全部、そう。



☆☆☆



今までは、同級生だけど違うチームで、でも友達。気が合うなっては思ってたけど、遠く離れていたし、微妙な距離感だった。
それが、世界で戦うことになって、合宿をして少なくない時間を共に過ごすことが当たり前になってしまって、
側にいることが心地良すぎて、
離れることが寂しくて仕方なくて、
離れることの埋め合わせに、
自然と付き合いはじめた。

友達の時とは違うハグをして、
手をつないで、
キスして、
キスにも慣れた頃、
お互いに意識し出すことは一つ。
しかし、俺が朗希を抱くの?朗希が俺を抱くの?
身長差的にはそうなのかなぁと思うけど、潔癖の朗希が?じゃあ、やっぱり俺が?
そう悩んだ時期もあったなぁ俺も。
はじめてキスするときまで、朗希は恋慕と友情を履き違えてたりするんじゃないかと不安になっていた。
そろそろキスする頃だろうかなんて考えて、身長差があるから俺からはスマートに出来ないなぁと思った。駐車場までの暗がりで朗希が屈んで目線を合わせてきたなって思ったら、唇が触れて、離れて……。
「みやぎ」
そんな優しい顔されたら……。
もう一度近づく距離に、自然と目を閉じていた。
その触れるだけのキスした後は、なんだかこそばゆくて、ふわふわした気持ちだった。
朗希も同じだったんだろう。
繋いだ手をさらに握ったり、振ったりしてた。
上がった口角に柔らかく細められた目。
照れくさいけど、その時にやっと、朗希と俺は恋人なんだなと実感した。
そこからは、お互いに気持ちが加速していったように思う。

ハグだってなんだか違う。
友達とのハグは、共に戦う同士が味方としてのハグ。意味なんて特にない。
特に、野球選手としては小さい部類の自分は肩に手を回されたりすることは良くある。昔の青春映画なんかの肩を組んで歌を歌うようなもんだろ。
恋人になった朗希とのハグは、言葉で言い表せないくらいだった。それまでも、肩を抱かれたりしていたけど、何かが明確に変わった。
愛おしくて、何か目に見えない物を分け合うように、お互いの心音を確かめ合っていた。
言葉に出来ないこの気持ちを表現する。温かくて、気持ち良くて、このまま溶けて仕舞いたいなと思う。
甘えたい、甘やかしたいと思った。
本当に甘い甘い、砂糖より蜂蜜より甘くて魅惑的なキャンディーみたいだった。
ハグですらこんなに気持ちいいなら、
体を繋げる時は、どうなってしまうんだろう。
そういう考えが脳裏をよぎった。
朗希もそう思っているんだろうか。
何度目のキスだろう。
最初は唇を重ねるだけだったそれ。
ふわふわした優しいだけだったキスが、だんだんそれだけじゃ足りないとばかりに、深くなっていった。
「……はぁ」
唇を何度も何度も重ね合わせる。唇同士を食んで、その柔らかさを堪能しあう。
「んむ」
アツイ熱を帯びた舌で、丁寧にゆっくりとリップクリームでも塗るかのように唇を舐めあげられて、背筋に電気が走るような感覚を覚えて、身震いする。
「宮城、口開けて」
声に砂糖を混ぜたら、そんな音になるんじゃないかって言うくらいの甘さを含んでいた。
言われるがままに、おずおずと口を薄く開ければ、こちらの心情を見透かしたらしい朗希に甘く、
「可愛い」
なんて囁かれて、自分よりか幾分大きな手のひらで、頬を撫でられた。
開いた口に、いつの間にかあのアツイ舌が滑り込んでくる。
頬を撫でていたハズの手は、覆うように耳塞いでいて、自分の口腔内の水音をよりリアルに感じさせられた。
舌同士が擦れる感触に慄いて、下を向こうとしたら、がっちりと手で抑え込まれた。
「んぅ」
しっかりと上向きに固定されて、のし掛かるように上から唇が何度も落ちてくる。
経験値が低い俺は、早々に白旗をあげて、されるがままになる。
口と口ってこんなに重ねるもんなの?
お互いの熱が混ざって、より熱くなる……。
理性も呼吸も唇も舌も、混ざり合って溶けてしまうんじゃないだろうか。
そんなキスが終わりを告げて、溶け出していた思考で、ぼんやりと赤く色付く朗希の唇を見ていた。
コレが、今、俺の唇に……。
「宮城」
さっきの甘い声とは違う、強い語気に顔をあげる。
そこには、自分の知らない顔をした朗希がいた。
その自分に向けられる眼差しで理解した。
あ、俺喰われるんだ。


その時、明確に言われた訳じゃないけど、きっとそう。
その直感が確信に変わったのは、シーズンオフになろうかという頃。
「宮城の部屋行きたい。」
「良いよー。」
朗希からそう言われて、軽く返事をした。そして、次の言葉で軽く返事をしたことを少し後悔した。
「抱きたい。」
誤解しようもない表情。
しかし、雰囲気で流れるようにとかじゃなくて、宣言してくる所が朗希らしくてちょっと笑ってしまった。
照れくさいったらありゃしない。
「ろうたんの部屋じゃなくて?」
抱かれる為に行くのも恥ずかしいけど、うちで良いのだろうか。
「ん。宮城の部屋が良い。」
「ふ〜ん?」
「俺の事思い出して欲しいから。」
「は?」
「俺が宮城の部屋で、宮城のベッドで、宮城を抱いたら、宮城は俺の事思い出すだろ?お前の空間に俺を刻みつけたくて。」
開いた口が塞がらないって言うのはこの事を言うんだと思った。
「……考え方、エグくない?」
「そう?」
なんでそんな不思議そうな顔してんのこの男。
「好きな子に自分を刻みつけたいじゃん。」
……剛速球の男は、詰め方も剛速球なんだな。
自分が喰われるんだと実感させられたあの視線で、俺を見てる。
頬を掠める朗希の利き手の指先が、熱を帯びているのは、きっと気のせいじゃない。それだけの熱量がそこにある。
俺、刻みつけられるの。
なにを?
朗希を?
その熱を?
言われた言葉を受け止めきれない。よく漫画で女の人が卒倒するシーンがあるけど、こういう時なんだろうか。そこまで神経細くないので卒倒なんてしないが、次の言葉が出てこない。
「……ただでさえ、普段は遠くにいて会えないんだし。」
飢えたような顔でエグいことを言った後に、そんな置いて行かれた子供みたいな事を言わないで欲しい。
眉も目もしょげてしまって、口だってへの字になって、小さい子供みたいな。全身でアピールしないで。無意識だろうけど、ありもしない母性本能擽られそうになる。
「……朗希を俺に刻まれたら、俺どうにかなっちゃうよ?」
「どうにかなれよ。」
「なんつー我が儘。」
なんだかんだ言って、自分はこの男を受け入れてしまうんだ。
惚れた弱味なんだろうか。


☆☆☆


いざ、朗希を自分の部屋に迎えたのは、昨日で……。
発情期ですか?っていうくらいに色気だだ漏れで我が家にきた朗希に速攻で風呂場に連れ込まれた。
せっかく数日間こちらに来るのだから、観光や美味しいご飯屋なんかの下調べをしていたのに、「どこか行きたいとこある?」すらも言わせて貰えなかった。
後、潔癖症の朗希を思って、色々用意していた。だけど、俺は信じられないことばかりの連続で、促されるままに寝室に入る頃には虚無だった。

潔癖症ってなんだっけなと思った。
『ヒッ、……ろうっき、もッやめて』
『駄目。』
『やぁ!!』
準備の段階から本当にあり得ない程の丁寧さだった。
3試合分くらいの神経と体力を持って行かれた夜だった。

何度、朗希の名前を呼んだだろう。
唇も、胸も、下半身も、ヒリヒリするし、喉も痛い。
「みやぎ?」
そんな甘い雰囲気で、いかにも事後ですっていう少し声擦れたで名前を呼ばないで欲しい。
恥ずかしくて、顔を合わせられなくて拗ねた俺は、朗希の呼びかけを無視して、布団を被る。
クスクス笑う音が部屋にこだましている。
「おーい、みやぎ?みやぎくーん?みやぎさん?」
布団の上から、ポコポコ叩いてくる。
「……ろーたんのアホッッ、っ」
上機嫌の大男に蹴りを入れようと足を動かそうとして、内股がツリそうになる。遅れて腰の痛みと先程まで朗希を受け入れていた場所からの感覚で慄く。
「んぅ」
「宮城?大丈夫?動かない方が良いよ。」
「……」
恥ずかしくて、布団を被り直そうとするも、動いたことで出来た隙間を利用して布団を捲られる。
「俺のが、宮城の中にあるね。」
しっかりとその部分を確認されて、指を添えられた。
敏感になっているそこに指を添えられて、背筋が震えた。
「やめ」
「だって、出てきてるから。」
「〜ッ!!ァ」
ぐにりと朗希の指が、赤く熟れているであろうそこに入り込む。
「本当は、全部、宮城の腹にぶちまけときたいけど、腹壊すみたいだし、掻き出すな。」
「ちょ、やぁッ、ろうきっ」
にちゃりと粘度の高い水音と体の中で感じるアツイ指先の感覚に、口からは意味のない音しか出てこない。


疲労感が半端ない……。
所謂、後処理をまさかなんの心積もりもなく致されるとは思わなかった。マイペース過ぎる。でも、そういう所、猫っぽくて、嫌いじゃないし、むしろ好きだと思っているから始末に負えない。
だけど、ただでさえ、色々限界だったのに、臨界点突破だよ。
「……せっかくデートとか出来ると思ったのに。」
「デートはしよ。最終日くらいに?」
「なんで、最終日。」
「ん?だって、俺、こっちにいる間は毎日、お前を抱くよ?」
「は?」
「俺を刻むって言ったじゃん。」
「は?」
「最終日くらいなら、動けるようになってるんじゃない?」
にっこり笑顔でそんな事を言う朗希に、反発したくても、結局、朗希の好きなように受け入れてしまうんだろう。
自分も朗希という存在が欲しくて堪らないから。
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