野球

□短編
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「寂しいの?…うん、俺も……あはは、うん。頑張る。ねぇ、入場する時の曲さ、うん。聞いててね、ちゃんと。…なんで、聞いて。…んふふ、うん。じゃあ、また。夜電話していい?え〜良いじゃん。俺はやりたい。…ふふ。やった。うん。じゃあね」


嬉しそうに目を細め口元をにやけさせながら通話をする令和の怪物兼今日の先発投手様を見かけ、物珍しさに足を止めてしまう。一緒にいた由伸も気になったのか共に止まる。
通話を終えたのか、愛おしそうにスマホの画面を指先でなぞる佐々木に「そんな顔出来るんやな」とつい呟いてしまった。俺の声が聞こえていたのか、顔を上げた佐々木と目が合う。

「お疲れ様です」
「おーお疲れ」
「お疲れ。ろーたん、誰と話してたん?」
あ、聞くんや。
人の揚げ足を取りいじる気満々であると言いたげな、まぁ、ニヤニヤとした表情を浮かべながら尋ねる由伸を止めるべきか悩んでいると、佐々木は平然と「大切な子です」と答えた。
「彼女?」
「んー…まぁ、そんな感じの子です」
「なんや片思いか」
「まだ付き合ってへんのにそこまで言えるの凄いな」
「付き合う予定なんで…!てか、周りの許可があればすぐにでも付き合うんで」
ドヤ顔で言う佐々木に「はいはい」と返事をして由伸と2人でグラウンドへ向かう。
先発投手様は余裕やな〜。試合前にまだ付き合ってもない相手に電話する時間があるんやから。
そんな事を考えながらホームランダービーに向けて準備に取り掛かった。

後日、自身の所属球団が上げた動画のお陰(?)で佐々木の電話相手がうちの大切な末っ子である宮城で、彼に向けてわざわざあいつが登場曲を変えたということが発覚する。その上、佐々木に対して宮城は、別にソウイウ、恋愛的な関係や感情は持ち合わせていないと知りドン引きした。
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