skmくん受け1
□メロウ
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「俺のしょーたがこんなにも可愛い。」
「…うん。」
「りょーたちゃんと聞いてよ、俺の!翔太が!!可愛い!!!」
「聞いてるよ。翔太が可愛いのは昔からだし。」
「出たゆり組マウント!ちょっと悔しいけどりょーただからいいや!」
にひひ、と今日も今日とて太陽のように笑う小型犬。見てるこちらまでつられて頬の緩んでしまう様な、不思議な魅力を持つ彼は、名前を佐久間大介という。
騒がしくて、明るくて、周りを巻き込むほどパワフルで、人の懐に入るのが抜群にうまい。
人を愛することが得意で、惜しみなく愛情を自分の大切な存在に向けられる。
甘え上手な様でいて、甘やかし上手な、努力家。
ーーーーそのくせ、人から愛される事は、苦手。
宮舘涼太は、佐久間の事をそう理解していた。
人が好きで、人が喜ぶ顔が好きで、人から必要とされる事を望んでいて、沢山の愛情を振りまく。だと言うのに彼は、人からその愛を返される事が得意じゃない。
彼が向けてくれる感情や気持ちと同じだけーーーあるいはそれ以上にーーー俺たちだって彼のことを想っているのだけれど。
それを受け取る事が極端に下手くそなのだ、この佐久間という男は。
困った様に笑って、むずがる様に体を揺すって、小さな声で礼を言う。あれだけ堂々と、惜しみなく「好き」を伝えられるのに。
いざそれが自分に向けられるとどうしたらいいのか、分からなくなるのだと言う。
「そんでさ、昨日翔太と電話してたんだけど。
もうね、ツンデレ属性ってほんと最高だね。
会いたいって中々言い出せないくせに俺がわざと言わないと拗ねんの。もう超可愛いの!!!」
「意外。佐久間ってそういう駆け引きできたんだ。」
「可愛い推しを見るためならば!!」
なるほど熱源はそこか。
基本的に好きなものに対する熱量が高い佐久間だ。今は翔太のツンデレとやらに目覚めているらしい。面倒見がいいし身内には甘い彼のことだから、きっと翔太のその素直になりきれない部分が可愛くて仕方ないんだろう。
何度も言うが佐久間は、愛情を向けるのは得意だけれど、向けられるのは得意じゃない。
だから俺は、2人が恋人になれたのが正直に言うと、意外だった。
2人が想い合ってることが、じゃない。
わかりやすいくらいにお互いの感情なんてメンバーにまでダダ漏れだったし、幸せそうに笑う2人を見て納得以外の感情なんて出てこなかった。
じゃあ何が、と問われればーーー佐久間が翔太の想いを、愛を、受け止める覚悟をした、というのが。
例えばアニメや漫画なら、それは一方通行だ。
自分の心いくまで存分に好きを届けられる。それがきっと、佐久間の1番やりやすい形なのだろう。
だけれど現実の恋人同士となればそうはいかない。愛した分だけ愛は返ってくる。それがきっと正しい形で、あるべき形だ。
しかし、メンバー相手にですらまともに賛辞を受け取れない彼だ(一度検証のため皆で、「ガチで佐久間のいい所を言う会」を開催したことがあるが、佐久間がおどけて空気をふざけさせる事もできず最終的に、顔を真っ赤に染めて逃げ出した過去がある。)
佐久間が恋愛赤ちゃんなんて呼ばれるのも、きっとそういう性格が影響してるんだろうと思っているのだけど。
「…翔太は、恥ずかしがり屋で。素直じゃないとこも沢山あるでしょ。」
「うん?うん、そうね!」
「でも、佐久間に対しての気持ちとか、愛情とかね、そういうのって割と素直に出てると思うんだよね。翔太は一度ふっ切れると強いから。」
「…うん、そうね。」
「でも佐久間は、人から愛されるの、苦手でしょ。」
ぱちくりと大きな目がまばたきを繰り返す。
少しの間が空いて、言われた事を理解したのだろう。眉毛を下げてへにゃりと笑う。
図星を刺された時の表情だ。なんて返そうか、どう切り抜けようか思いつかなくて、困ってる時の顔。
「好きなものを好きって言ったり、愛してあげるのは得意なのに。それを自分に向けられた途端、逃げ出したりしちゃうじゃん、佐久間。」
「…言葉にしちゃうと、俺めっちゃフセージツな奴っぽいね。」
「そんな風には思ってないよ。ただそうだよねって話。何も悪い事じゃないし、責めてるわけでもないから。」
「……うん。」
「ただね、気になって。翔太はどうやって佐久間の事口説き落としたのかなって。」
「ふはっ、口説き落とすって!
涼太でもわかんない事、あんのね。」
「そりゃね。幼馴染みとしての翔太のことはよくわかってるつもりだけど、恋人としての顔は知らないし。」
知ってたらお前も困るでしょ。
そう付け加えれば確かに。なんて真剣な顔して頷くから笑ってしまう。誰もお前らを引き離そうとなんてしないのに。
素直になれない翔太と、人の愛を受け取るのが下手くそな佐久間。2人が一緒になるまではそれはもう本人たちはもちろん、周りにいた俺たちもずいぶん苦労した。
だからこそ、この不器用な2人がーーー大切な幼馴染みと同期が、共にあれる空間を、時間を守りたいと願うのはメンバー全員の思いだ。
特に照や阿部あたりは佐久間のセコムだし。そのせいで翔太がいつも気苦労を重ねてる事はまぁ、言わないでおいてやろう。
「…翔太ね、今の涼太と同じこと言ったよ。」
「俺と?」
「好き好きー!って自分からは言えるくせに、言われた途端逃げ出すって。翔太の場合は怒られたんたけど。」
くすくす笑いながら、懐かしそうに目を細める。
こうして見ると、本当に整った顔立ちをしてる。母親似とよく言われてるがその通りで、男にしては少し高い声も相まってどこか女性的だ。
そういえば前に、『目黒がいつも彼氏ヅラすんだよ…!アイツ可愛いしセコムもいるし何だってんだ!!俺の立場!!』と翔太が叫んでいたのを思い出す。
うん、まあわからなくもない。
同じ男から見ても、佐久間は多分可愛いと思う。
でも気付いてるのかな、翔太。
佐久間が1番可愛い表情になるのが、いつなのか。
「でもね、翔太が…そん時、ね。」
ーーー誰の話を、してる時なのか。
「愛を向けられるのが苦手なら、それが当たり前になるようにしてやるって。逃げ道なんか無くなるくらい、お前の事愛してやるよって、言うの。」
そんなんね、もう覚悟決めるしかないじゃん?
「俺、翔太が好き。涼太が、皆が好き。
昔はそれだけで良かったけど…今は、それが、同じ分だけ返ってくるのが嬉しい。
愛されてるーって自覚すんの、恥ずかしいし困るけど、嬉しい……俺、こんな欲張りじゃなかったはずなんだけどな。しょーたのせいだ。」
おどけてふふっと笑う佐久間は、本当に幸せそうで。そして文句なしに可愛いらしい。
翔太以外に翔太の話をする時がもしかしたら1番幸せそうな、可愛らしい顔をしてるなんて。
可哀想にも思ったけど、俺らの知らない佐久間を翔太は独占してるんだから、まあいいかと思い直す。
「…それは欲張りじゃないよ。愛のあるべき形なんじゃない?」
「うぉお…さすがLOVEマスターだぜ…」
「でも、佐久間。翔太だけじゃないからね。」
「ん?」
「佐久間を愛してるのは、翔太だけじゃないよ。俺らだって、お前が俺らに向けてくれる愛情と同じだけ、お前の事愛してるからね。」
ちょっとした対抗心が芽生えて、そんな事を言ってみる。
彼氏だからと言って、佐久間が翔太から向けられるそれだけを喜ぶのは何だかつまらない。
俺たちだって、佐久間が思う以上に佐久間の事が大好きで、大切なのだ。恋人としての佐久間を独占する権利は翔太にあるんだろうけれど、メンバーとしての佐久間まで独占させたくはない。
結局、愛されることに不器用で、愛すことだけ得意な佐久間の事が皆愛おしいのだ。
佐久間が翔太の愛を受け入れる覚悟をしたのなら、俺たちの愛だって受け止める覚悟をするべきだ。とっくに逃げ道なんて塞がれてるんだから。
「忘れないでね。お前は、ちゃんと俺らに愛されてるんだよ。」
「ーーーは、なっ、あぅ、うっ…?」
「ははっ、日本語忘れた?」
軽口にも乗っかれないほど、可哀想なくらいに頬を真っ赤に染めて、瞳には薄く涙が張って、口元を震わせて。
相変わらず下手くそ。それでもこれだけ正面きって告白されて、逃げ出さなくなっただけマシになったかな。
頬杖をついて笑いかけてやれば、限界を迎えたのだろう。両手で顔を覆って机に突っ伏した。
無理、限界、やっぱ無理とぶつぶつ呟く声が呪詛のように聞こえてくる。ちょっと怖い。
「さーくま。」
「ぅううう…むりむりむり、イケメンからの愛情過剰摂取は心臓に悪い…俺のメンバーが尊い…」
「お前ほんと、俺たちのこと好きだね。」
「大好きだよばぁか!!!涼太のばーか!!」
「子供か。」
キャンキャン子犬のように吠える佐久間。
うるさいけどついつい笑い声が漏れてしまって。
それにも不満そうに眉を寄せて、いかにも拗ねてますって顔をするもんだから余計に面白い。
ごめんね、機嫌直してよって伝わるようにふわふわした、だけど傷んだ髪をスッと撫でる。
いまだに顔の赤い佐久間は驚いた顔をして、また恥ずかしそうに目を伏せたけど。
今度はくしゃりと顔を歪ませて、笑った。
いいね、お前の笑った顔、俺好きだよ。
「…翔太に怒られるかな。」
「何でぇ。こんなん俺ら普通じゃん。それに、まだ来ないよ。」
「じゃ、賭けてみる?」
「え」
集合時間30分前。そろそろ他のメンバーも揃い始める頃だろう。何となく、もうすぐお前の彼氏も来るんじゃないかな。
何せ俺は生まれた時から翔太の事を見てるんだ。こういう時のカンは、よく当たるんだよ。
ほら、聴き慣れたスニーカーの音。
ドアが開けば、香るのはきっとバニラのラストノートだ。
「おはようござい……って近い!お前ら!近い!!」
「うわほんとに当たった。」
「てことで佐久間、今度の飯はお前の奢りね。」
「まじかよぉ!!」
「おい聞けよ!近いって言ってんの!さっくん返せよ涼太!!」