ハニ受け2

□Seventh ディエイト
1ページ/1ページ

突然目の前に現れたのはせいぜい衣服だけを身につけた元気のない青年だった。




その子はわずかな表情さえ見せてくれなかった。
ただ僕の方をじっと見つめて、なにかを待っているかのように頑なに口を開かなかった。
どこから来たかもわからないのに、その子を見ているとなんだか手を差し伸べたくなってしまって、そっと手を差し出すとその子は少し口角を上げて僕の手の上にそっと自分の手を乗せた。




「お名前は?」

「ディエイト、ミョンホでもいい。」

「ディ、ディ、ディなんて?え、それって本名?」

「別に、昔の友達がつけてくれただけ。呼びづらいならミョンホって呼んで。」

「わかった、じゃあミョンホって呼ぶね、僕はユンジョンハン、ここの近くで働いてて23歳。」

「じゃあジョンハニヒョンだね。」

「ヒョンつけて呼んでくれるの?嬉しいなぁ。」

「俺、ここにいて平気なの?」

「たまに友達来ることあるけど、みんないい人たちだから大丈夫だよ。」



不安そう
というわけでもなく、ミョンホはそっかというふうに頷いた。





それからミョンホと距離が近くなった。
決して図々しいわけでもないし馴れ馴れしいわけでもない、ちゃんと距離を守って接してくれるミョンホが可愛くていい子だなぁと思う反面、なんだかミョンホともっと近づきたいと思うようになった。


この子はいつか僕の元を離れる。

そんなのわかってるのに、ミョンホとの毎日は楽しくて彼が笑ってくれるだけで僕もなんだか嬉しかった。





「…ヒョン。」

「ん?」

「あのさ。」

「どした?」

「ヒョンは、なんか悲しい?」

「…え?」



急に何を聞くかと思ったらそんなこと。
悲しいなんて、本人に筒抜けするほど僕はわかりやすかったのかな。




「悲しくないよ。」





嘘をつくのは僕の得意分野だから。
ミョンホ、またそっかって笑って。





「嘘、下手くそだな。」




嘘が下手だと言われるなんて思っても見なかった。
ミョンホが僕の想像を超えて来るのは今回が初めてで僕が戸惑う番だ。





「悲しいなら悲しいって言って、一緒に過ごしてきてわかった、ヒョンは何か悩み事があったら隠すタイプでしょ。」





友達にも言われたことのない言葉。
どうして一緒にいてまもないミョンホに、僕の性格がわかるんだろう。



「悲しいのは、なんで?教えて、ヒョン。教えたくないから僕を追い出してもいいから。」





そんな選択、選ぶ余地なんてあるのだろうか。
ミョンホを追い出すのは僕が何よりも嫌なことなんだよ。




「かな、しい、、ミョンホ、、いなくなったら寂しいよ。」


「。」


「嫌だ、いなくなったら嫌だ。」

「ミョンホがいるだけで、僕本当に楽しいんだ。」




ミョンホは言葉に詰まりながら話す僕を優しく見つめて聞いてくれる。
ミョンホの細い手は僕の頭をふわりと撫でた。
なんだか心が軽くなった気がする。
きっとミョンホは、神様が与えてくれた、僕だけのプレゼントなんだ。




「頑張って伝えられたね、ヒョン。」




こっちが笑ってしまうほどの柔らかい笑顔に、僕はただミョンホを見つめる。




「ねぇヒョン、いなくならないから僕の手の上にヒョンの手を乗せてくれる?」



ミョンホのお願いに首を傾げながら、ミョンホの手の上に僕の手をのせる。




「はい、これで約束。だからもう悲しくないよ、今日は一緒に遊ぼうか、ヒョン。」





ミョンホ。
大好きだから、悲しいことは全部言うから、君だけはいなくならないで。





ある日、後輩であるハンソルが家にやってきた。
チキンとビールを持って。
明るくて人懐っこいからハンソルは友達たくさんいるみたいだけど、たまにこうやって遊びにきてくれる。




「ヒョーン!ってあれ?新しい同居人?」



何のためらいもなく同居人?って聞くハンソルはいかにもハンソルらしい。
そうだよ、と答えると、へぇ、ヒョンが同居を許したんだとかなんとか小声で言いながら、よろしくとミョンホに手を差し出していた。




「この人、ヒョンが言ってた友人?」

「そう、ハンソルって言うの。ミョンホより一つ年下だよ。」

「ふーん、」

「そんな警戒した顔はno,no!俺別にあんたをどうこうとかじゃないよ?」




いつもの軽い感じで挨拶をするハンソルに、ミョンホはすごく警戒心を抱いてる。
まぁ無理もないか…ミョンホはおとなしいからハンソルは合わないかもしれない。



「まぁヒョンの友人なら悪い人じゃないと思うけど、あんた、初対面なのに馴れ馴れしいね?」

「えー、だって堅苦しいのは好きじゃないしさ、ミョンホヒョン?ヒョンも今日から俺の友達、仲良くしてよ。」




ハンソルは全く気にしてないが、ミョンホは明らかに僕のそばにくっついていて、仲良くなれそうな雰囲気はない。




「ミョンホヒョン、チキン好き?」

「好きだけど、あんたからもらう理由はない。」

「なんでよー、だから友達なんだって、遠慮しないでよ。」

「…じゃあ一個もらうよ、ありがとう。」




ハンソルは本当にいつもと変わらない。
見てるこっちは気が気じゃないのだが、ミョンホもこの場の空気に慣れてきたのか、いつも通りおとなしいミョンホに戻ってる。




「あっ、ヒョン、今日もなの?笑笑」

「今日もって?」

「チキン食べるといつも口周り油だらけ笑子供みたいだよなー、ほんと。」




そういって身を乗り出して僕の口元を拭こうとするハンソル。
近くなるハンソルの顔に戸惑って何も言えないでいると、ミョンホの手がゆっくり僕の前に出された。



「何やってんの。」

「何って、ヒョンの口を拭こうと…」

「そんなのハンソルがやらなくたって俺がやるからいいよ。」




そう言って隣にいたミョンホは僕の前に迫ってきていて、キスできるくらいに近い距離で僕の口をティッシュで拭いた。



「うわ、なに、キスしたの?」

「違う、口拭いただけ。」

「よかったじゃんヒョン、ミョンホヒョンにめちゃくちゃ好かれてて。」

「えっ、、と、いや…」




あまりにも近い距離で口を拭くとき、ハンソルには聞こえないぐらいの声で、"あんまりヤキモチ妬かせないで?"と言った。
僕は表情管理できているのだろうか。




「そーんなにラブラブならそのビールとチキンはお祝いとして置いていくから、あとは二人でごゆっくり。」

「え、ハンソル帰るの?」

「うん、実を言うと先週ぐらいからスングァンと付き合いだしたんだ。」

「えっ、なんで言ってくれないの。」

「それを今日伝えにきたのにヒョンは十分幸せそうだから、そんな情報いらないかなって?」

「絶対スングァン大切にしてよ!」

「言われなくてもそのつもり、あいつ可愛くて。」



ハンソルはじゃあまたな、ジョンハニヒョン、ミョンホヒョンと言って帰っていった。
一気に静かになる家の中、ミョンホはいつもの落ち着いた表情で僕を見てる。
なんでいつもそんな余裕なんだろう、ぼくはろくにミョンホの顔を見ることもできないのに。




「あっはは、あのぼくの可愛い弟がいてスングァンって言うんだけど、まさかハンソルと付き合ってるなんて驚いちゃうよねほんと。」



なんか弁解してるみたい、僕。
でもこの空気に耐えられない。



「ふっ、ヒョン、まだ口に油ついてる、ちょっと取っていい?」



自分で取るよ
そう言う暇もなくミョンホの顔はまた近づいてくる。
どうして、そう考えるより早くミョンホの行動に僕の意識は奪われていた。


キスされてる、間違い無く、
それも軽いキスなんかじゃない、口を軽く舐められて舌が口内に入ってきている。




「よし、これで取れた。」



満足そうに舌をペロッとするミョンホに、僕はまた何も言えなくなる。



「びっくりした?でもヒョンが可愛くて。」



あの日授けてくれたミョンホというプレゼントは、僕に恋という感情まで落としてきた。



「…可愛いって思うのは好きだから?」

「あたり、すごいねヒョンって。」




僕の全てを甘やかしてくれるミョンホだから、僕はこんなに好きなんだよ。




〜end〜
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ