ハニ受け2

□Sixth ウジ
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先生と知り合ってしまった。
この先の人生の中できっと1番後悔して、1番記憶に残って、1番心が動かされるそんな出来事が起こってしまった。




「ねぇ、先生のこと好き?」




転校生だった俺はあまり学校に馴染めず、1人で行動することが多かった。
その日も早く昼食を食べ終わり、何か勉強でもしようかと教科書を開いた時、目の前にすっと先生だと思われる人が歩いてきた。




「、、」

「ねぇ、君、イジフンくんでしょ?先生のこと好いてくれてるかな?」





好きも何も、転校してそんな経ってないし、まずあんたの名前も知らないんだけど。




「いや、好きじゃないです。」

「ええ、好きじゃないって言われたの久しぶりだなぁ。」

「そうですか。」





なんなんだ、この先生。
一体誰なんだよ、顔もうろ覚え程度なんだけど。





「そんなに冷たいの嫌だな、僕。」

「俺、先生のこと一つも知らないですよ。」

「顔も?」

「今やっと認識しました。」

「名前も?」

「はい。」

「担当の教科も?」

「はい、本当に一つも知りません。」




はっきりそう告げると、落胆したような表情を見せた。
この先生、男だよな?
髪長いけど一応男だよな…




「うーん、一年ぐらいはこの高校にいるんだけどね。」

「俺ここに来たの、二週間前ぐらいですし。」

「そっか、君が転校生ね!」

「先生なのにそんなのも知らないんですか。」

「だって僕、臨時教師だもん〜、常にクラス持ってるわけじゃないから特別仲良いとか、たまに持つクラスの子以外把握するの難しくて。」

「…俺のこと知らないのに、好きって聞けるとか、いい性格してますね。」

「名前と顔は知ってたの!女の子たちがちっちゃくて可愛いって話してたから!」




…ちっ、
身長の話は聞きたくない。




「そうですか、じゃあもうこれで。」

「ちょっと、僕の名前ぐらい知ってよ!僕はユ…」




先生が名前言おうとしたら、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒が教室へとぞろぞろ戻ってくるところだった。





「もう昼休み終わりですよ?先生なら注意する立場じゃなきゃ。」

「むー。」

「いいから帰ってください、俺も次の授業の準備したいんで。」




無理やり先生を追い返して昼休みは終わった。





「ジフナー!」

「ジフナー!」

「おい、イジフン!」





それから毎日のように俺の名前を呼ばれ、見つかったら追いかけてもきた。
最悪だ、なんだあの変な先生。
逃げまくっていたら、その光景を見ていた女子生徒たちの会話が聞こえた。




「見てー、ジョンハン先生走ってる。」

「ほんとだ、先生汗だくじゃん笑」

「ユンジョンハンって名前も見た目もあんな綺麗なのに、親しみやすいからジョンハン先生って好かれるよね。」

「今度また話しかけてみよ。」

「そうだね!また僕のこと好き?って聞くかもよ。」

「ちょっと甘えん坊みたいなとこもかわいいよね、先生って。」





ユン、ジョンハン …
あの先生の名前はユンジョンハンって言うのか。
ていうか親しみやすいっていうより、ただ威厳がないだけだろ。





俺がただ迷惑がって嫌っていただけで、周りの生徒からはかなり好かれているみたいだった。
ま、まぁ、顔はそこそこいい方かもだけど、あいつの何がそんなにいいんだよ。

なんかモヤモヤしてその気持ち悪さを解消するために音楽室へ足を運んだ。
ピアノでも弾いて心を落ち着かせよう。
そう決めて音楽室の扉を開けると、ピアノを弾いていたのか、鍵盤に顔をつけて寝ている。
何やってんだよ…
起こそうと近寄った時、微かに香るのは洗剤の匂いと独特な甘い匂い。

こんな匂いを漂わせるのはこいつ1人しかいない。男のくせに女みたいな匂い嗅がせてんじゃねえよ。
ますますなぜかイラついて叩き起こそうとさらに近寄った時、こいつの顔を見てなぜか近寄る足が止まった。
長い睫毛が伏せられて、白い肌が光を浴びて輝いて、長い髪が茶色く丸みを帯びて、その頰に涙が伝っていた。
ほんと意味わかんねえ、なんだよ、なんでこんな心臓が早くなるんだよ。


そっと顔を近づけて、その綺麗な髪に指を通してみる。引っかかることない艶やかな髪に触れた瞬間、確実にこいつへの思いがわかってしまった。




「ユン、ジョンハン…」




つい自分でも無意識のうちに先生の名前を呼んでいて、ばっと先生から離れると、俺の小さい声でも聞き取れたのかゆっくり目を開けた。
その瞬間目が合う、まだぼーっとしているような目に俺は、阿呆面でもしているのだろうか。




「…ジフナ?」



少し舌ったらずに俺の名前を呼ぶから、俺はますますドキドキするんだって。



「そ、そうですけど…」

「へへ、当たり。もう君を知らないなんてことないからね。」




わかってるよ、お前はもう俺を知ってて、俺ももうお前に惹かれてる。




「ユンジョンハン、先生の名前そうですよね?」

「…!」

「もう覚えましたよ。」





どんな反応をするんだろう。




「もっと呼んでね、これから。」




意外にもあっけなく彼は椅子から立ち上がり、少しだけ微笑んで音楽室を出て行った。





期待させるように何度も俺を追いかけて理由は何なんだ、
おかげでこっちが逆に先生が頭から離れなくなるだろ、何様なんだよ、ほんとに。
名前も覚えたのに、やっぱりお前は誰に対したってすきって聞くようなやつなんだな。


はっきりさせたくて、なぜか先生の急に冷めたような態度が気になって、先生を探した。
でも思いつく先は音楽室で、行ってみることにした。前よりも少し緊張しながらドアを開けると、やっぱりユンジョンハンはそこにいた。
ただ寝ているわけではない、ピアノを弾いているわけでもない。まるで俺が来るのを待っていたかのように、椅子に座ってこちらを見て微笑んでいた。




「…やっぱり、来ると思った。」




静かにつぶやく先生は、やっぱり最初に笑顔で聞いてきたユンジョンハンなんかじゃない。



「なんで、わかったんですか。」

「なんでって、、なんとなく?」




はぐらかす理由もわからない。
どうして変わったのか、その理由だけをさっさと述べてくれればいいのに。




「…ふざけてるんですか?」

「そんな怖い顔しないでよ、ただ来ると思ったって自分の勘を言っただけなのに。」

「先生、本当はそんな性格じゃないでしょ?」

「なんで?」

「本当は誰も好きなんかじゃない、どんな生徒から好きって言われても先生のあくまで嘘で固めた自分が喜ぶだけでしょ?」

「難しくてよくわかんな…」

「そうやってはぐらかすの十分だから早く答えろよ。」




ヘラヘラ笑って、人の心を弄ぶような笑顔、嫌いなはずなのに、前音楽室で見た涙が頭から離れない。



「…うん、そうだよ、ジフナの言う通り。僕は誰も好きじゃない。」

「生徒に対して本気って言う方がウケるけど。」

「どうしてジフナはそんなに怒るの?好きじゃないのが悪い?」

「あ、それとも、初めて会った日、僕のこと好き?なんて聞いて勘違いさせちゃった?」



図星を突かれた気がして、目の前のユンジョンハンを睨むことしかできない。




「あれみんなに聞いてるの知ってるでしょ?僕はこんな最低な野郎だってことも、君はもう知っちゃったでしょ。」

「…先生は、なぜ泣いてたんですか?」

「な、」

「あの日泣いてた理由は、なんですか?」

「泣いてた?気のせいじゃない?」

「泣かせた人がまだあなたの記憶に残っているなら、俺はその人を許しません。」




やっぱりどこか意地を張ってるようで、誰かに頼ることができない一匹のうさぎみたいで、放っておけなくてつい腕を引っ張って抱きしめた。




「何するっ…」

「まだ先生が苦しんでるなら僕は先生を離しません、絶対に先生が悲しくなくなるまでそばにいますから。」

「っ…」

「先生と生徒だってわかってても、そばにいたいんです。先生、俺のわがままを一回くらい聞いてくれませんか?」




拒んでいた体がピタリと止まる。
咄嗟に先生を見ると、先生は顔を伏せて肩を震わせながら泣いていた。



「っ…生意気、、」

「ごめんなさい。」

「ジフナがっ…何知ってるって言うんだよっ…」

「はい、俺は何も知りません。」

「もう辛い思いなんてしたくない。」

「そのために俺がいます。」

「ジフナはまだ高校生じゃん。」

「…地位じゃなくて、俺と言う存在自体をみてください。」




その言葉に目を見開いた先生は俺をゆっくり見つめる。
時間が止まったように感じられるこの瞬間、先生には俺がどんな風に映ってるんですか?




「そのわがまま、卒業したら聞いてやらなくもない。」

「それは聞いてくれるってことでいいんですか?」

「…そうかもしれないね。」

「じゃあそう解釈しますね。」




今度は俺が余裕そうに微笑む番。
少しうろたえるジョンハン先生を眺めるのも悪くないかもしれない。




〜end〜
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