ハニ受け3

□Paint it , Black
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彼らには不文律のようなものがあった。口に出して明言せずとも、守られている暗黙の了解。共同生活を始めてもう何年も経つけれど、お互いのプライバシーに口出しすることはない。その代わり、チームの迷惑になる行為はしないように各自で注意している。



自分は良識のある人間だと思っているソクミンは、誰もいない宿舎、持ち主不在の携帯電話の前で、激しく葛藤していた。この携帯電話を盗み見ることは恐らく常識から外れた行為だけれど、ソクミンの好奇心はその何倍も強かった。



最近、ミンギュの様子がおかしい。以前はよく「独り身は寂しい」なんて言葉を口癖のように言っていたのに、この頃はやけに静かなこともそうだし、練習がつらくても、メンバーに文句を言われても、背を向ければ一人でにこにこと笑っている様子を見ると、絶対に何かあったと思う他なかった。ああ、やっぱり鋭いなイソクミン。自らの観察力に感嘆し、ソクミンはついにリビングの床に転がっていた携帯電話を手に取った。



これはプライバシーの侵害などではない。前もって知っておけば、何かあったときにすぐに対応できるからだ。誰に聞かれた訳でもないのに心の中で言い訳を繰り返すソクミンは、さっそく携帯電話のロックを解除した。暗証番号が設定されていなかった携帯電話は、指を滑らせただけで簡単に開く。



ソクミンが一番初めに見たのは、写真だった。しばらくスクロールしてみても、女の子との写真は一枚もない。なんだ、おもしろくない。自分の思い違いだったかとため息を吐いた瞬間、ソクミンの目に入ってきたのは、写真に紛れた一つの映像だった。サムネイルで予想のつくその映像は…。



「うわ…あいつ彼女いるくせにアダルト動画持ち歩いてんの…」



キムミンギュの好みはどんなものか。これ一つで百年は揶揄えると楽しくなったソクミンは、一面肌色の動画をわくわくしながら再生した。しかし携帯電話の画面に映し出された映像を見たソクミンは驚き、横になっていた体を慌てて起こす。何だ、これ…。



「本当に撮るの?」
「俺が卒業したら何でもお願い聞くって言っただろ」
「はぁ、まじで…こんなお願い考えもしなかったんだけど」



宿舎だった。そして映像から聞こえてくる声をきっと、自分は知っている。手のひらがカメラを隠して暗くなり、また明るくなったりを何度か繰り返す。一言二言の押し問答の後に「一回だけだから」いう声が聞こえた。その言葉の後すぐ、乱れていた映像は固定され、定まった。



男にしてはとても長い髪だった。肩の下まで伸びた髪が落ちて目を隠すのが気に入らないのか、片方の髪を耳に掛けた男は、薄い長袖シャツとジーンズ姿でミンギュのベッドの上に座っている。ソクミンは自分が何を見ているのか分からなかった。二つの目でしっかりと見ているというのに、受け入れられなかった。



「さ、ジョンハニヒョン、自己紹介から」
「何だよ、ここでも番組みたいにやれって?…ううん、名前はユンジョンハンで、歳は二十二、あとは何?」
「一番大事なこと言ってないじゃん」
「大事なこと…えっと、これからミンギュと…おい!やっぱ無理!本当にやんなきゃダメ?」
「何で?どうせやるならしっかりやらないと!っていうかヒョン、今めっちゃ顔赤いよ」



ここでソクミンは一旦画面を止め、混乱した気持ちを宥めた。キムミンギュはジョンハニヒョンと付き合っていて、こんな動画を撮ったのか?想像もつかなかった展開に、携帯電話をテーブルの上に投げるように置き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一気に飲む。自分は何も見なかった、何も知らない。そうだ、録画しておいたドラマでも見よう!とリモコンを取ろうとした時、再び携帯電話が目が入った。



正直、きれいだった。男だというのに長い髪がよく似合い、大きな丸い目を細めて笑う顔を、他の女の子アイドルよりもかわいいと思ったことだって少なくない。先ほどの映像を見ても、気持ち悪いとは思わなかった。むしろ、もっと見たいという好奇心の方が強かった。ごくり、と唾を飲み込む音に自分でも驚いたソクミンは結局、携帯電話を持って一目散に自分の部屋に入ると、イヤホンを探した。



「ああもう、勝手にしろよ…俺はこっちに集中する」



画面に映っていた顔が突然消える。下を向いた映像には、すでに裸になったジョンハンがミンギュのジーンズのジッパーを引き下げ、その間に顔を埋めていた。下着の上から舐めたり噛んだりするたびに、髪の毛も一緒に揺れている。



映像が揺れて少し離れた。膝をついて立ち上がったミンギュの前に伏せるように座ったジョンハンは、ジーンズと下着を一緒に握り、引き下げる。わっ…ミンギュとは一緒にシャワーを浴びたこともあるけれど、改めて映像で見ると妙な気持ちだった。



ジョンハンはミンギュの性器を持ち上げ、その下の睾丸を口に入れて転がした。チュプチュプと音を立て、根元を舐めている。はぁ…と堪えるような声が聞こえた。深く息を吐いたミンギュがジョンハンの頭に手を伸ばし引き寄せると、一瞬口に入った性器はすぐに抜け、見上げるジョンハンの顔が映った。



「こほっ、こほ…うう、急にやめろよ」
「もっと咥えられるだろ」
「俺のタイミングでやりたいの」
「そのタイミングってのはいつ?」
「ふふっ…今?」



画面を見上げながらにこにこと笑う顔が、もう一度ミンギュの足の間に埋まった。少しずつ口の中に入った性器はすぐに、隙間が見えないほど奥深くまで飲み込まれる。再び音を立てながら頭を動かしている男の肩、背中、腰を映し出した画面に今度は、丸くきゅっと上がったお尻が見えた。ミンギュの手がその間に割って入る。腕に力が入り筋が浮かび上がると、ヒッと短く声を出したジョンハンが腰を捻った。



「どうして離すんだよ」
「はぁ…苦しくて」
「お尻こっち向けて四つん這いになって」
「お前本気で全部撮る気なの?」
「いいって言ったのはヒョンだろ」



指で擦ったので間が少し赤くなっているお尻が、ビクッと動いた。男にしては広い骨盤は、四つん這いになると一層際立つ。思えばジョンハンと一緒にシャワーを浴びたことはなかった。白くて丸いお尻を見るのは初めてだ。ソクミンが荒くなる息を何とか落ち着かせようと努めている間に、滑らかな肌を撫でる褐色の手が離れていく。



「ヒョン、ここ持って開いて」
「それきついんだけど…」



ミンギュを振り返ったジョンハンはぶつぶつ文句を言いながらも、言う通りにした。片方の頬をシーツにつけたジョンハンは、素直に両手を後ろへ持っていくと自らのお尻を掴み両側に広げた。指のすき間から、押さえつけられたやわらかそうな肌がはみ出している。



すぐに露わになった場所は不思議な感じがした。左右から引っ張られてそっと開いた中は、赤かった。アダルト動画で見た女の人たちと似ているようで、確実に違っていた。ソクミンは自分でも気づかないうちに、じっとそこを見つめていた。画面の中では、つやつやとした指がジョンハンの穴を撫でている。細い太ももは小さく震えていた。



「ねぇ…ミンギュ、意地悪しないで」
「どうして欲しいか言って、ヒョンのして欲しいことするから」
「早く入れて…中がムズムズするの」



ミンギュの手がジョンハンのお尻をぎゅっと握り、落ちた。すぐに映像は離れ、ベッド全体を映す。どこかに携帯電話を乗せて位置を確認している間、ジョンハンはカメラを見ながらピースをし、人差し指で頬を突いて、騒ぎもしなかった。こんな時までアイドルらしくいる必要はないのに…。



ソクミンは猫の額ほどしかない画面に集中した。仰向けで寝転んだジョンハンの足の間に腰を進めたミンギュが、ゆっくり動き出す。徐々に入っていく間唸っていたジョンハンが、大きくため息をついた。それが合図だった。休む暇もなく腰を打ち付けるミンギュはもう何も言わなかった。はぁはぁという吐息と、か細い喘ぎ声が混ざって聞こえてくる。



ミンギュの姿はそれほど入ってこなかった。勝手に頭から消してしまったという方が正しいのかもしれない。ソクミンが釘付けになったのは、理性をなくし半開きの目で乱れているジョンハンの顔だった。



狭い宿舎のベッドが壊れそうなほど揺れている。隠すつもりもないように大きくなる矯声と共に、みしみしと軋む音も聞こえた。ジョンハンは、上から突き刺すように速いスピードで腰を打ち付けるミンギュを力の入らない手で押し返そうとするけれど、結局諦めてただシーツを握りしめている。そしてジョンハンの腰がぶるぶると震えたと思った次の瞬間、薄いお腹の上に勢いよく精液が放たれた。



「もうイッたの?」
「はぁ…ミンギュ、ちょっと疲れた」
「俺まだなのに」



相変わらず深く押し込んだまま腰を僅かに動かしていたミンギュが、一度ギリギリまで引き抜くと、再び奥まで突き刺した。すると一度射精して敏感になっていたジョンハンは、体を捻るようにして逃げる。
「おい!この獣め!」
ジョンハンの拳がミンギュの腕や太もものあちこちを殴る。痛いと声を出しながら笑ったミンギュは、ジョンハンの体をぎゅっと抱き寄せた。



「分かった分かった」
乱れたジョンハンの髪をゆっくりと撫でた後、ミンギュの手が画面に近づいてくる。暗くなったと思うとすぐに映像が終わった。ギャラリー画面に戻った液晶が勝手に消えて黒くなるまできょとんとした顔で座っていたソクミンは、はっとイヤホンを投げるかのように抜き、ズキズキと痛む下半身を宥めるためにトイレへと急いだ。


「ソクミナ、お前最近おかしいよ」
「おかしいって、どこが?」
「こっちおいでってヒョンが呼んだらぴったり隣に来なくちゃなのに…ジョンハニヒョンのパボもやらないし」



ソクミンは本から目を離さなかった。ページは先ほどから進んでいない。勝手に部屋に入って来たジョンハンはソクミンのベッドに座り、マットレスをバンバンと叩きながら不満をこぼす。このまま避けるようにこの場を離れた方が不自然だと思い、黙って横になっていた。



ちょうど一週間が経った。一週間、ジョンハンと目が合えば避けていた。寝転がりながらテレビを見ている後ろ姿を見ても、裸になってミンギュに組み敷かれエッチな声を出していた映像を思い出した。ソクミンは自分がアダルト動画を初めて見た中学生になったような気分だった。



「ちょっと出て話そう」
「どうして?どこに行くの?俺、これ読もうと思ってたんだけど」
「それ、ハンソリの本じゃん」



ジョンハンに連れて行かれたのは、宿所の近くにある小さな居酒屋だった。ほとんど骨じゃないかと疑うほど粗雑なチキンを一つ真ん中に置き、ビールが一杯ずつ手元にある。自分好みに焼酎とビールを混ぜたジョンハンは、乾杯と言ってジョッキを軽く当てた。この前まで高校生だったからといってお酒を飲んだことがなかった訳ではないけれど、事実ソクミンはお酒が好きではなかった。すぐに酔う方だったし、次の日まで残る気分の悪さが嫌だった。



「お前何隠してんの?」
「隠すって何を?四六時中一緒なのに、隠してることなんてないよ」
「じゃあどうして避けるの?俺は本当に寂しいよ、ヒョンが何かした?うん?」



ソクミンは本気で泣きたくなった。ジョンハンの性格上、理由を言うまで絶対に逃してくれないだろう。ジョンハンは氷が浮かんでいる水を一気に飲むソクミンの手を掴んでグラスを奪うと、お酒がなみなみと注がれた重いビールジョッキを差し出した。



「まぁ飲んで」
「はぁ…ヒョン、本当に隠し事なんてしてないよ?」



ジョンハンの勧めに、ソクミンは無理矢理にでもお酒を飲まなければならなかった。一度心に決めればたとえ社長に言われたとしても意見を変えないということはよく知っていたけれど、ここまで強く出るとは思わなかった。飲み干すとまたすぐに満たされるビールジョッキを青い顔で見たソクミンは、言ってはいけない…と頭の中で繰り返しながら、チキンを手に取る。



「ヒョン…本当は隠してることがある」
「うん、言ってみて?ヒョンが全部聞いてあげる、怒んないから」
「俺、本当に言うつもりなんてなかったのに…ヒョンがお酒飲ませるから…」



まっすぐに目を見ようとしたけれど、出来なかった。既に呂律が怪しいソクミンはため息をつき、話を切り出す。テーブルの上に両手を組んでソクミンと向き合うジョンハンがうん、うんと相槌を入れた。



「ヒョン、その…ミンギュと…」
「うん?ミンギュ?」
「俺、動画見ちゃって…ミンギュの携帯に入ってた、あいつとヒョンの…あ、誰にも言わないから…」



ソクミンが見たというものが一体何なのか、しばらく考えなければならなかった。撮っておいて存在すら忘れていた映像だった。卒業祝いをくれとあまりにもしつこかったので、面倒で分かった分かったと言ってしまったのが思わぬところで災いとなった。キムミンギュこの野郎…と心の中で悪態をつきながら、目の前が真っ暗になった。見られてしまったものをなかったことにする訳にもいかず、言い訳もできそうにない。それでもソクミンの反応が静かだったことは、不幸中の幸いだった。



「ソクミナ、あれは…」
「何度も思い出して、頭がおかしくなりそうだった」
「え?」
「ヒョンがご飯を食べているだけで、横になっているのを見たときも…俺、おかしくなったみたい」



喉が渇いてビールをがぶがぶと飲み、結局テーブルに伏せてしまったソクミンを連れて帰るのはジョンハンの役割だった。宿舎はすぐそこだというのに、ジョンハンよりも背が高いソクミンを運ぶのには随分時間が掛かった。ようやく宿舎のドアを開けて入ると、どうしてお酒をこんなに飲ませたんだ…と小突いてくるスンチョルにソクミンを任せ、自分の部屋に直行する。



相当お酒を飲んだはずなのに、眠れなかった。ソクミンから話を聞いた直後は浮かばなかった考えが…ジョンハンは時間が経つにつれてだんだんと不安になった。ソクミンがそんな人ではないということは分かっていたけれど、先ほどのように酒の勢いで、メンバーの誰かに愚痴をこぼしたら…想像もしたくない話に、ジョンハンは考えを振り払うように頭を振った。
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