ハニ受け4

□触ってキスして心まで
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「な、なに?」

ジョンハンは自分より10センチは上にいる精悍な顔を見上げる。リビングでいつものようにメンバーにくっついてだべってたら帰ってきたミンギュにいきなり拉致された。いつも子犬のように無邪気で可愛らしい弟分なのに、こうやって無表情の顔は男らしくてかっこいいのは卑怯だと思う。

「……」

圧がすごくてジリジリ後ずさってたら壁に背中がくっついた。顔の横にトン、と体躯に合わせた大きな手が置かれる。これって壁ドンでは?ジョンハンの呑気な頭にはそんなことが浮かぶ。近い顔に逃げるように視線をそこかしこにはわせる。来慣れたミンギュの部屋だ。珍しく掃除できていないのかそこらじゅうに服が散らばっている。

「どーしたのって」
「…」

相変わらずミンギュは押し黙ったままジョンハンの顔を飽くことなく見つめている。いつもはうるさいくらいの声をジョンハンは恋しく思った。この大型犬はどうしたものか。飼い主に牙を剥くって感じか?それにしたら意図が掴めない。ジョンハンは困り果てて頭を撫でてみた。

「!」

ミンギュの体が少し跳ねて情けなく眉が垂れた。その顔をしたいのは自分の方だと思いながら大きな身体を緩く抱きしめてやる。体格的に抱きつくかたちになってるのが不満だ。両手で背中を撫で摩るとミンギュの身体が押しつけられ、また壁とくっつく羽目になった。壁についた手はそのままに、腰を抱き寄せられ壁とミンギュに挟まれる。

「くるしっ、て」

文句を言うも今日の大型犬は人の話を聞かない模様だ。なんか辛いことでもあって人恋しくなったんだろうか。ジョンハンはとりあえず気の済むまで放っとこうと意識を明日の夕飯へ飛ばした。

「……」

自分は何をしてるんだ。そう思うも体が勝手に動いて止まらなかったし、止める気もなかった。
リビングでメンバーにくっついて寛ぐジョンハンなんて日常茶飯事なのに今日はとんでもなく嫌だった。前日にいつもより仲良く過ごせたっていうのもあると思う。とにかくジョンハンに自分を見てもらいたくてたまらなかった。子供じみた独占欲がミンギュの内側でいつの間にか膨らんで爆発寸前になっていた。
有無を言わさずミンギュはジョンハンの手を引いて自分の部屋に押し込んだ。不思議そうに見上げてくる顔は風呂に入った後なのか、化粧も何もしておらず、肩に流れる無造作な髪がいつもより無防備に見えてミンギュの胸は高鳴った。
体が引き寄せられるようにジョンハンに寄って、無意識に壁まで追い詰めてしまう。逃げてしまわないよう壁に手をついて見下ろした顔は、しどろもどろしていて普段と違う表情が可愛い。

「なに、ちょっと」

ジョンハンが困っている。助けてあげなきゃ、と思うのに元凶が自分ではどうしようもない。それに、自分でも制御できないのだ。身体が勝手に動いてしまう。見上げてくる顔は中性的で綺麗で可愛くて、ちょっと横暴だが優しくて大好きなヒョンのものだ。だから、勘違いしてしまうのも仕方ないと思う。ミンギュは開き直りながらも、それでも男で同じグループの先輩にこの気持ちはなんなんだ、と相反する思いを抱えていた。
もしかしたら、自分が少しいつもと違う行動をしたら何か変わるかもしれない。そう思って衝動に身を任せてみたが、何も伝えられず、かといって何か直接的なことをする度胸もなく、まるでお預けされた犬みたいだ、とミンギュは思った。
情けなく固まっていると不意に引き攣った空気が緩んで頭に柔らかい手が降ってきた。そのままゆるり、と撫でられて体が跳ねる。

「…っ」

自分より一回りは小さい身体が宥めるように抱きついてきて背中を撫でる。ぐっと感情が込み上げてきて細い身体を抱き寄せて首筋に顔を埋めた。ジョンハンの匂いを大きく吸い込む。やっぱり、好きだ。勘違いなんかじゃない。勘違いでこんなに感情はぶれない。ミンギュは苦しくて浅く息を吐き出した。こんな大柄な自分に抱かれてるジョンハンの方が苦しいだろうな、と思ったけど力を緩められない。
感情が嵐のように渦巻いて胸が苦しくて切ない。何が辛いってジョンハンが自分のことを男として微塵も意識してないことだ。気遣うような色を湛えた目にも、落ち着くようにと回された手にも、気がすむまでと脱力して預けられた身体にも、どこにも自分への特別な感情はない。他のメンバーが自分と同じことをしても、きっとジョンハンは同じように返すだろう。誰にでも平等に接して触れ合うのと同じように。
それが辛い。ミンギュは彼の特別になりたい。

「…」

抱き込んでいた身体を少し離して目を合わせれば、至近距離にお互いの顔があって長い睫毛の一本一本まで鮮明に見えた。
近すぎる。ジョンハンは焦って目を伏せた。けれども見てしまったミンギュの目には、じわりと焼き尽くすような激情が灯っていて身体が震えた。これは恐怖か期待か、自分でもよくわからない感情に襲われる。
ジョンハンは身長差で潰れて赤くなった鼻を庇うように顔を伏せて頭を壁に擦り付けた。それでも肘を曲げて壁につき、腰を引き寄せてくるミンギュとの距離はほぼ変わらない。
ちょっと待てこれは…。逞しい肩に手を掛ける。引き剥がさないとこの雰囲気はヤバいかもしれない。ようやくジョンハンは危機感を持った。

「ステイ…ステイ…」

このタイミングで犬扱いとは、空気を読んでいるのかいないのか。ミンギュを引き剥がそうとするジョンハンの手にはいつになく力が込もっているが、鍛え上げた身体はびくともしなかった。
焦って怯える中に少しの好奇心を堪えたジョンハンの目が恐る恐る見上げてくる。可愛いな。ミンギュは自分の中にこんな性癖があったのかと関心する気持ちと、もっと追い詰めたいと欲に塗れた気持ちが芽生えた。

「…」

ちらり、と視線がジョンハンの唇に落ちる。
荒れたことを知らないような整った薄い色の唇。触れてみたらどんな感触だろう。その中にある赤い舌はどんな厚さだろう。どんな味がするだろうか。ごくり、とミンギュの喉が生々しく上下した。
本格的にやばい。ジョンハンは押し退ける力を強くして足をばたつかせるも、いつの間にか足の間にミンギュの長い足が捩じ込まれていて、ずりずりと床を軋ませるだけだ。せめてもと、腰に回された手を引き剥がそうと両手で掴んだら掴み返されて手のひらに熱い指先が滑り絡み合わされ顔の横に縫い付けられた。

「まって…、」

もう動けるのは顔と唇だけだ。
顔が近すぎて普通に喋ると息がかかってしまう。いつもならどうもないが、今日のミンギュは変だ。あまりにいつもと違う熱量で接してくるから抗議の言葉を紡いでも弱々しい声しか出てこない。ミンギュはその声にぞくりと性感が煽られる。もっと嫌だ、離れろと暴れるかと思ったのにジョンハンは自分の肩を押すだけで怒るでも悲しむでもなかった。性の対象として見られていることに気付いたはずなのに食べられるのを待つ草食動物のように微かに瞳を揺らして戸惑うだけだ。たとえ暴れても離してやらなかったが、思わぬ態度にミンギュは興奮が煽られていくのを感じた。
彼の中で、どうでもいい存在になりたくなかった。嫌うでもいい。みんなと同じじゃ嫌だ。自分だけに見せる顔が見たい。自分のことで戸惑ってほしい、自分と同じように頭がいっぱいになって欲しい。欲が渦巻いて襲いかかってくる。

「はぁっ」
「っ」

頭を埋め尽くす欲望を吐き出すように息を吐いたら熱くて湿った空気に曝されたジョンハンが喘ぐ様に息を詰めた。
もうダメだった。我慢できない。
ミンジュは腰を引いて屈み、俯いて頭部しか見えないジョンハンの顔を掬い上げるようにして下から乱暴に口付けた。

「っ、ふ、ぅ」
「ん、ぅ、」

顔を斜めに背けて隙間なく触れ合わせた唇は思った通り柔らかく薄くて、小さい唇は口を開けば全て喰らい尽くしてしまえそうだった。顔を振って抵抗しようとする頰を片手で掴んで親指を突っ込み無理やり口を開かせる。
チラリと見えた赤い舌がとんでもなく美味そうでミンギュは求めるまま大きく舌を出して絡みついた。

「んっ、んぅ」

整った歯列を親指で擽り、興奮で染み出してくる唾液を喉奥に流し込む。擦り付けるように舌を絡ませた。狭い口内の歯列から柔らかい粘膜の内側まで乱暴に辿って衝動のままにじゅるりと口内の唾液を吸い上げる。

「ふ、…っ、んん、」

待ち望んでいたジョンハンの舌は薄くて甘く、ミンギュの厚い舌で捏ねられて柔らかくかたちを変える。どこかしこも甘ったるくて柔い口内からはほんのり酒の味がして、だから自分を拒絶しきれずにいいようになっているのかと思ったら理不尽な怒りが湧いてくる。

「う、ふ、ぅ…っ、ん」

ちゅ、じゅ、ぴちゃ、と下品な水音が溢れてジョンハンの脳に反響する。乱暴に口内を詮索されて、閉じられない唇から滴る唾液でミンジュの親指はぐっしょり濡れていた。
年下で気が合わないけど可愛がっていて、そこそこ懐いてくれてた後輩にキスされてる異常な状況に、ジョンハンは何でこんなことになったんだとぼやける頭で何度も考えるも全く検討がつかなかった。
自分はスキンシップが好きだ。ミンギュも多分好きだと思う。でもそれにしても度を超えている。なんで、どうして?疑問符は散り散りに浮かんで消えた。何よりも、一番厄介なのが弟のように思ってるメンバーにキスされてる有り得ない状況に流されそうになっている自分だった。
無邪気で可愛くて、弄ると拗ねて怒って攻撃してくる子供っぽい子犬のようなミンギュの自分が知らない男としての一面を見て否が応にも心臓が跳ねた。
雄の色香を全身で浴びて、熱っぽく見られて奪い尽くすようなキスをされて、じわじわ官能が迫り上がってくる。
やばい、やばい。頭では警告が鳴り響いているのに顎を掴む大きな手に縋り付くように片手を添えてキスの合間に甘ったるい声が出るのを止められない。

「んっ、ふ、ぅう、」
「っは、ちゅ、ん」

ジョンハンのむずがるような声がミンギュの腰に響く。
もう親指を引き抜いても口は閉じられなかった。
可愛い、可愛い。あの女王様みたいな、いたずら好きで自由人なジョンハンが自分の下でされるがままになって甘い息を溢している。ミンギュは興奮して熱くなった身体をジョンハンに擦り合わせようと首の後ろを捕まえて、キスしたまま身体を起こした。体制が変わって上から滴り落ちるミンギュの唾液を喉を開いて飲み込みながら絶えず舌は絡められる。
ぢゅ、ぢゅうう、ぬちゃ、と長い時間をかけて唾液を口内で捏ね回される執拗で粘着質な音がお互いの鼓膜を犯して興奮を止め処なく煽る。

「ふぅ、も、やぁ」

ミンギュの興奮を押し付けて暴くようなキスに酸欠と興奮で頭がのぼせて、気持ちよくて苦しくて身体が蕩けそうだった。片手を拘束してる大きな手が汗で滑って解放されても、もう何の抵抗もできずそれどころか引き寄せるようにミンギュの頭に回る。

「っ!」

途方もなく煽られる。ミンギュは自由になった片手で飲み込みきれなかった唾液の冷えた跡を辿って、華奢な鎖骨に塗り込めるように指を押しつけた。ジョンハンはふ、と息を零して喘ぐ。

「ふっ、は、ぁ」

茹った頭と蕩けた体がひどくつらい。ミンジュは汗で湿った手をジョンハンの体に這わせる。
ぬちゃ、と見せつけるようにねっとり舌を差し引いて濡れたジョンハンの唇を舐めた。はあ、と息を切らしながらそのまま顔を下ろして滑らかな肌に吸い付く。胸を上下して解放された空気を忙しなく取り込むジョンハンは情事を思わせてミンギュの胸はより一層高鳴った。細いのに骨っぽくなく柔らかな肌の感触はミンジュを楽しませて興奮のままに肌に吸い付き続ける。服の下に手を差し入れて片手でも充分堪能できるぐらい細い身体を撫で摩った。

「ふ、、まっ、て、」

熱い手と口で舐めて吸って触られてジョンハンは自分の理性がガラガラと崩れていくのを感じた。きもちいい。流されたい、だめだ。なんで?メンバーだから…。言い訳をBGMのように頭の中に流しながらパサついたミンギュの髪を両手で掴む。
引き剥がさないと、と思うも緩く髪を引っ張るだけではミンギュをただ煽るだけだ。

「こら、やめ、ろって…」

反抗するようにちゅうっと肌を吸われて赤くなったところをぺちゃぺちゃ舐められる。なんか大型犬に懐かれてるみたいだな、とこんな状況なのにジョンハンは面白くなった。
クスッと笑った声が聞こえたのかミンギュは顔を上げまた唇に吸い付いてくる。
ミンギュの目は熱に浮かされて潤んでて、それなのに強い意思を瞳に宿していて、これは本当に食べられてしまうかも、とジョンハンは思った。


そのとき。
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