skmくん受け10

□表に出ないところでは常にくっついてるnb/sk
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例えば控え室でメンバーしか居ないタイミングだとか。
例えば数人のメンバーで個室のご飯屋さんに行った時だとか。
とりあえずメンバーの目しかない状況で。
「おまえらくっつきすぎ」
『……え?』
三人しかいない控え室で、ソファーの前に仁王立ちで顔を顰める深澤に、渡辺と佐久間はきょとんと目を丸くして機嫌が悪そうな深澤を見上げた。
向かい合わせになったソファーの、もうひとつの方に座っていた深澤が何故急に機嫌が悪くなったのか分からない。
「どうしたの、ふっか」
「なんで怒ってんの?」
「怒ってんじゃねぇよ、呆れてんの!もうすぐスタッフさんが呼びに来るっつーのにくっつきすぎだろ!」
普段のキャラ忘れてんのかよ、と盛大なため息までつく深澤に、佐久間は後ろを振り向き、極至近距離にある渡辺と顔を見合わせる。
近すぎて顔がぼやけて見えるが、だいたい表情は分かる。
「だから近いんだって」
「あ、」
もー、と痺れを切らせたらしい深澤が渡辺の足の間に座っていた佐久間の腕を掴んで立ち上がらせる。すると、特に抗うとこなく立ち上がった佐久間の反対側の手を渡辺が慌てたようにしっかりと掴んだ。
「ふっか、」
「別に連れてったりしねぇっつーの!さくちゃんはなべの横に座ってて」
「……えー」
「えー、じゃないの。スタッフ入ってきたらびっくりするだろ。イチャつきたかったら家でやれよ」
「別にイチャついてないよ!」
「自覚ねぇのかよ!!」
オレはすぐにでもこの部屋出たかったわ!!と叫び返されて渡辺と佐久間はまた顔を見合わせる。
心底驚いたようなふたりに、本当に無自覚なのかと頭を抱えたくなった。
大きめのふたり掛けソファーにふたりで並んで座るのは分かる。それへ普通だ。
しかしこのふたり、座面が広いせいもあって渡辺が座っている足の間、というか前後に連なって座っていた。
そして渡辺は佐久間の腹に手を回してしっかりと抱え、身長が近いおかげで目の前にある細い肩になんなく顎をのせ、後ろからも見えやすいように持つ彼のスマートフォンをふたりで覗き込んでキャッキャしたいたのだ。
このふたりは付き合っていた。
言わば恋人という関係だ。
当然ながらメンバー以外には極秘情報なので、そのことを第三者に気付かれるわけにはいかない。
だがしかし、深澤含めて三人しかいないせいか隙もないほどくっついてキャッキャウフフしているふたりの空気が甘すぎて、向かい側にいるだけで胸焼けしてしまう。
それでなくても最近は、公には佐久間に対して塩対応だった渡辺が、流行病で画面越しでかひとに会えない期間が数ヶ月続いたあと、あの塩対応を忘れてしまったのかのような言動を度々繰り返す渡辺がいて、その度に深澤は落ち着かない気持ちでいた。
佐久間自身はケラケラとそれを笑い飛ばしていたりまるで保護者のような態度で接するので、最近仲がいいね、に留まっている。
が、ふたりはもともと仲がいいのだ。
渡辺が佐久間を好きになって意識してしまって意識しすぎて逆に雰囲気が悪くなってしまった時期を経、時間が経ってお互い大人になってそれぞれに歩み寄って現在に至る。

「………………」
仲がいいのはいい事だ。
喧嘩して空気が悪くなるよりずっといい。
渡辺も佐久間も真っ直ぐに物を言うのでよくぶつかり合いもしたが、お互い裏表のない言葉に子どもの頃より人となりを深く理解していったのかもしれない。
しかし、だからと言って「外でイチャつくの止めろって言ってんだろ!」
先方の機材のセッティングでトラブルが発生して待ち時間が伸びていた。
きょう最後の仕事だしあしたは昼からなので後に影響が無いと言えば無いが、いまもうそんなに早い時間でもないのでさっさと終わりたい気持ちでいっぱいだ。
それは仕事が終わればさっさと帰りたい渡辺も同じなようで、腕の時計にチラッと目を落としては小さく舌打ちしているのを何度か見た。その度に佐久間が宥めるのだが、気づけば先程注意した、渡辺に背中から抱え込まれるような体勢に戻ってしまっていた。
深澤の声を極力潜めつつ、しかし苛立ちをあまり隠さない言葉にふたりともよく似た表情で『ふっかがいるから大丈夫でしょ』とケロりと言う。
「…………は?」
「なんだかんだ言っても、おれたちのこと心配して扉に近い側座って外の音が聞こえるように居てくれてんじゃん」
「……なに言って、」
「オレたちずっと見てるから分かってるよ。ふっかは気付いてなかったのかもだけど」
扉の外を誰かが通る度に聞き耳を立てている深澤、をふたりはくっついていつつも気配で察していた。
スタッフが呼びに来たらすぐ立ち上がって離れるように片隅に意識はしていたのだ。
まあ、深澤が居るとこに九割安心してつい家でいるような密着度になってしまったことは否めないが。
深澤が目を丸くして固まっていると、扉を外から早いリズムでノックされたので佐久間は素早く渡辺の隣へと移動した。
座ると同時に扉が開き、「お待たせしてしまいまして申し訳ございません!準備が整いましたのでお願いします!」
「…………」
「はーい!」
こちらが返事をするより早くスタッフが扉を開いたことに渡辺は微かに眉間に皺を寄せたが、佐久間は元気な返事をするとそれとなく見えないようにその前でぴょこんと立ち上がる。
そしてまだ固まって心ここに在らずな深澤と、ご機嫌斜めになった渡辺を連れて焦るスタッフの後ろを自分のペースでついて行くのだった。
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