杜若

□陸話
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数日後



千鶴「お薬の準備、できました」



広間の会議中、石田散薬と熱燗を持ってきた
総司言うにインチキの薬
何でも土方さんの実家で作っているらしい



土方「総司と平助に渡してやってくれ。……それから、山南さんにもだ」

山南「おや、私も呑むんですか?私の傷はもう塞がっていますよ?」

沖田「試してみましょうよ山南さん。この薬って何にでも効くらしいですから」



山南さんは諦めたように薬を手にした



永倉「石田散薬は熱燗で呑むのが粋だよな。羨ましいぞ、お前ら!」

平助「羨ましいなら呑めばいいじゃん。新八っつぁんだって本当は怪我人だろ?」



新八っつぁんも池田屋で負傷したが本人は【既に完治済み】と主張していた
そんな痛々しい傷口を見せてて完治も何も無いだろうが
しかし新八っつぁんは普段通りに稽古や巡察をこなしていた。土方さんを大方丸め込んだんだろう



井上「しかし藤堂君と沖田君が怪我して帰ってくるとはなあ……」

平助「あれは池田屋が暗かったから!普段の戦いなら遅れは取らないって!
横合いから急に殴られたんだよ。おかげで鉢金なんて真っ二つだしさ」

原田「拳で鉢金を割る、か。ずいぶんと豪気な奴がいるもんだ」

永倉「他に、総司と千歳から逃げ切った奴もいたしな」

沖田「……次があれば、勝つのは僕ですから」

千歳「二度と会いたくはないね」



風間には会いたくはない
誰があんな坊ちゃんと…

すると広間の襖が開いて近藤さんが入ってきた



近藤「ーー会津藩から伝令が届いた。長州の襲撃に備え、我ら新選組も出陣するよう仰せだ」

永倉「ついに来たか!待ちかねたぜ!」

原田「残念だったな平助。怪我人はさすがに不参加だろ?」

平助「えー!?でも折角の晴れ舞台じゃん!」



平助はすがるように土方さんを見やるが……



土方「不参加に決まってんだろ。大人しく屯所の守備に就きやがれ」



当然一刀両断



平助「うっわ……土方さん、鬼!この鬼副長ー!!」

土方「なんだ、褒めてんのか?簀巻きにされたくなきゃ黙ってろ」



平助の文句はぴたりと収まった
土方さんなら本気でやりかねないからな



永倉「そういえば、千鶴ちゃん」



そう声をかけたのは新八っつぁん



千鶴「はい、なんでしょう」



呼ばれた理由が分からない千鶴は少し首を傾げた



永倉「もし新選組が出陣することになったら、一緒に参加したいとか言ってたよな?」

千鶴「……え?」



新八っつぁんの言葉に千鶴は驚いてそう声を漏らした

俺はそんなこと言ってたんだと思い、千鶴を見つめた



千鶴「でも、あの……」



たぶん否定的な事を言いたいんだろうけど、急な事すぎて慌ててしどろもどろになっている



近藤「おお、そうだな。 こんな機会は二度とないかもしれん」

千鶴「ーーえっ!?」



わ、近藤さんあっさり賛成した。でも一番驚いたのは本人みたいだ



平助「うわ。いいなあ、千鶴。 折角だしオレの分まで活躍してきてよ」



平助が羨ましそうに言った



千鶴「ーー活躍っ!?」



そしてその言葉にさらに動揺する千鶴。 その狼狽える姿を見た土方さんは呆れたような溜息をついた



土方「今度も無事で済む保障はねえんだ。 おまえは屯所で大人しくしてろ」



まあ、当たり前だけど危険なのは変わりがない。池田屋事件の時のも、仕方がなかったから使いに出たような物だし



山南「君は新選組の足を引っ張るつもりですか? 遊びで同行していいものではありませんよ」



山南さんの言い方は優しいようにも聞こえるけど…棘があった
事実、千鶴が若干怯えたような表情を浮かべている



斎藤「山南総長。それは――、彼女が迷惑をかけなければ、同行を許可すると言う意味の発言ですか?」

千鶴「え?」



声を発したのは、まさかの一だった
予想外の言葉に千鶴は目を瞬かせた。それ以上驚いた山南さんが口を開く



山南「……まさか、斎藤君まで彼女を参加させたいと仰るんですか?」



山南さんが確かめるように尋ねると、一は緩く首を横に振った



斎藤「彼女は池田屋事件において我々新選組の助けとなりました。働きのみを評価するのであれば、一概に“足手まとい”とも言えないかと」



一の言葉に千鶴は少し照れたような顔をした。 土方さんもちらと一を見たが、まあ気にしないでおこう
場が静まったので、近藤さんが口を開いた



近藤「よし、わかった! 雪村君の参加に関しては俺が全責任を持とう。 もちろん同行を希望するのであれば、だが」

千鶴「あ、あの…」



近藤さんの発言に千鶴は戸惑ってる
きっと山南さんが怖かったりするからだろうな。目線が彷徨ってるし。千鶴のその目線が総司を見た



沖田「戦場に行くんだってわかってるなら、後は君の好きにすればいいと思うよ」



投げやりな言い方だな。でも山南さんの裏に棘があるような言い方よりは、ずっとマシだった
だけどまだ不安なのか千鶴は今度は俺を見てきた



千歳「…使い走りにされる覚悟が出来てるなら、同行させてもらえばいいと思うぜ?」



そんな千鶴に俺は緩く笑いながら答えた。やっと安心したのか千鶴は決断した



千鶴「じゃあ、私…参加させてもらいます」



千鶴の言葉に俺は少し笑顔を作りながら心の中で呟いた


千歳「(…あいつらにに会わない事を願うか)」
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