杜若
□肆話
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文久四年 一月
俺は千鶴のことについて考えていた
それは千鶴が鬼だということ
千歳「でも本人知らなそうだしなー。綱道さんも何も教えてないんだろうし」
しかし彼女の姓、そしてあの小太刀を見れば鬼だということは一目瞭然
千歳「厄介なことにならなきゃいいけど…」
さて、暇だし中庭に行ってみるか
ーーー
千鶴は人の姿を探して、中庭に行ってみることにした
千鶴「……あ」
今日は運が向いている
中庭には沖田さんと斎藤さん、そして千歳さんがいた
千鶴「千歳さん、沖田さん、斎藤さん、おはようございます」
千歳「あ、千鶴。おはよ」
沖田「なんだか、明るいような暗いような微妙な顔してるね」
千鶴「え!?な、何か顔に出てますか…?」
すると、千歳さんがクスッと笑った
斎藤「むしろ、その反応に出ていると思うが。俺たちに用があるなら言うといい」
千鶴「実は…そろそろ父様を探しに外へ出たいなと思って」
斎藤「それは無理だ。おまえの護衛に割く人員は整っていない」
千鶴「う……何とかなりませんか?別に遠出したいわけじゃないんです。ちょっと屯所の周りだけでも…」
沖田「んー、僕達が巡察に出かけるとき同行してもらうのが一番手っ取り早いかな」
千歳「そうだねー、でも巡察ってそんな甘い仕事じゃないんだよ?いつ何があるか分からないから、命懸けだし、俺たちが下手を打てば死ぬ隊士だってでる」
沖田「浪士に殺されたくないなら最低限、自分の身くらい自分で守ってもらわないとね」
千鶴「わ、私だって護身術くらいなら…」
斎藤「ならば俺が試してやろう。腰のものが飾りではないと証明して見せろ」
千鶴「え!?確かに護身術は習いましたし、小太刀の道場に通ってましたけど…!」
斎藤「加減はしてやる。遠慮は無用だ。どこからでも全力で打ち込んでこい」
千鶴「でも…!」
斎藤「…どうした、雪村。その小太刀はやはり単なる飾りなのか」
千鶴「…そんなことありません。近所の道場に通ってたのも本当です
でも、斬りかかるなんてできません!刀で刺したら、人は死んじゃうんですよ!?」
「「………」」
「「ぷっ…あは、あははは!!」」
沖田さんと千歳さんは腹を抱えて笑いだした
千鶴「………何も笑うことないじゃないですか…千歳さんまで」
沖田「斎藤君相手に“殺しちゃうかも”なんて、不安になれる君は文句なしにすごいよ。最高!」
千歳「ごめんごめん(笑)いやー、まさかそんなこと言うなんて思わなかったからさ」
千鶴「…うー。刀って斬るものなんですよ?万一にもケガしちゃったら困るじゃないですか。人を傷つけるかもしれない刃物を、意味もなく抜くなんてできません!」
千歳「君の気持ちはわかったけど、自分の腕前を示しておけば、君の願いも早く受け入れることができるかもしれないよ?」
千鶴「え?」
沖田「そうだね。君がそれなりに刀を使える人間だって分かれば僕達も君の外出を少しは前向きに考えるし?」
千鶴「それって…」
私のため…?
斎藤「どうしても刃を使いたくないと言うのなら、鞘を刀代わりに使うか、峰打ちで打ち込め」
千鶴「……よろしくお願いします!」
私が小太刀を構えると、斎藤さんは小さく笑ってうなずいた
斎藤さんはまだ刀を抜いていない
だが、千鶴は斎藤を信用した
千鶴「行きます!」
千鶴は大きく踏み込んだ
その瞬間
千鶴「あ…」
斎藤さんの刀は千鶴の首もとに
斎藤「師を誇れ。おまえの剣には曇りがない」
千鶴「え…?」
斎藤「太刀筋には心が現れる。おまえは、師に恵まれたのだろう」
そう言って斎藤さんは身を引いた
千鶴「今の、は…」
沖田「これ、いい小太刀だね。ずいぶん年代物みたいだけど」
千鶴「え?」
いつの間にか飛ばされた刀を沖田さんが持っていた
千鶴「す、すいません!ありがとうございます!」
千歳「大丈夫?やっぱり驚いたかな。一はの居合いは達人級だから」
いつの間にか隣に千歳さんがいて、頭を撫でてくれた
千鶴「なんとか、大丈夫です//」
千鶴は顔が熱くなるのを感じた
斎藤「おまえは外を連れ歩くに不便を感じない腕だ」
千鶴「え?」
沖田「斎藤君のお墨付きかぁ。これって、かなりすごいことだよ」
千鶴「じゃあ、私…外に連れて行ってもらえるんですか?」
千歳「…外出禁止令を出した人が許可するなら、いつでも連れて行ってあげるんだけどなぁ」
千鶴「…ですよね」
斎藤「土方さんが大坂出張から戻るまで、今しばし待たせることになるな。…悪い」
千鶴「あ、斎藤さんが謝ることじゃないです。だから気にしないでください」
斎藤「巡察に同行できるよう、俺たちから土方副長に進言しておこう」
千歳「うん、俺も頼んでみるよ。だから、もう少し辛抱してね。話し相手くらいならなってあげるから」
千鶴「はい!ありがとうございます」
こうして千鶴は戻っていった
千歳「ねぇ一、俺は一からしてどのくらいの腕なの?」
沖田「千歳君もなかなかやるからね」
斎藤「おまえは、そうだな。安心して背中を任せられるような、そんな腕だ」
千歳「おー!なんか嬉しい!」
沖田「良かったね。ところで千歳君、暇だし手合わせしない?」
千歳「いいよ。手加減はなし、だよね」
沖田「もちろん」