黒薔薇
□第二話
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フィニが馬鹿力でシエルの杖(ステッキ)を折ってしまったため、シエルはセバスチャンを連れて新調した杖を取りに行っていた。その間スズカは、一人執務室で仕事を進めていた
『?』
不意に、屋敷の外から悲鳴が聞こえてきた。そして次に一階からまた悲鳴
『何だ?』
ペンを置くと、スズカは部屋から出て一階へと下りて見てショックを受けながら絶句した
『これは……』
「「「お嬢様!!」」」
「ああ!スズカ姉様ァァァァァァ!!!」
『うわっ!?』
一階は普段と一転して見る限り全てがメルヘンチックに着飾られており、それはフィニ、バルドも同じだった。それに固まっていたスズカに突進して抱きついた少女が一人
『エリ、エ、エリザベス!?』
「いやよスズカ姉様、リジーって呼んで?」
『姉様をつけるのはやめ「あーもう!スズカ姉様ったらいつ見ても可愛すぎぃ!!」
『人の話を聞け!』
ぎゅうぎゅうと抱きつきながら言うリザベスの相変わらずの態度にスズカがほえる
「お、お嬢様…」
「そぉだスズカ姉様!今使用人の皆を可愛くしてて、次で最後なの。一緒に行きましょう!」
『な、おい!?』
一体誰この人?とウサミミをしたフィニが戸惑いながらスズカに問いかける前に、エリザベスがスズカを引っ張っていった
そのことにしばし呆然と佇んでいた三人の背後で扉が開いた
「「「セバスチャンさあああん!!」」」
「!!?」
屋敷の変わりようにショックを受けていたシエル。セバスチャンも呆然としていると三人が顔を青ざめて抱きついてきた
「一体何事です!?というか…二人は何ですその格好は?」
ウサミミのフィニに赤ちゃんのような格好のバルド。メイリンは変わりないがどさまぎにセバスチャンに抱きついていた
「あの女(クレイジーガール)に聞いてくれ!」
「あの女…?」
少しばかり嫌な予感がしてきた二人はまさか、と思いながらバルドが指した部屋をそー〜…と覗いた
「こっちのリボンもいいけど、こっちの巻きバラのも最高にかわい――――っ♡迷っちゃう♡ね?スズカ姉様」
『…そうだな』
「でもやっぱりアナタにはそれねっ。すっごくかわいーーーーっ♡」
「そうですかな?ほっほっほっ」
「!!?」
ーーーーガタタッ!!
「あっ!!」
「!!!しまっ…」
中でタナカをマリー・アントワネットのように着飾らせたエリザベスは、シエルの存在に気づくとスズカの時以上に凄まじい勢いで抱きついた
「シーエールー♡♡会いたかったあぁあぁ!!」
「エ…エリザベス!!」
「やだぁ〜っ。リジーって呼んでっていつも言ってるじゃない!あああああんやっぱりいつ見ても最高にかわいーーーーっ♡」
見かねたセバスチャンが遠慮がちに咳払いした
「コホン。ミス・エリザベス…」
「あらっ。セバスチャンごきげんよう!」
スズカがはぁっと疲れ切ったような顔で解放されたシエルに近づいた
『おかえり…』
「ああ…リジーの相手ご苦労様」
「ほら♡」
ん?とエリザベスの上機嫌な声にそちらを見ると、セバスチャンの頭にはピンク色のフリッフリなヘッドドレスがつけられていた。彼以上に似合わない奴がいるのか…と思うほど似合わなすぎて笑える
「ああんかわいーーーー♡いつも黒ばかりだからこういう色もいいと思ってたの!」
瞳をキラキラと輝かせるエリザベス、「ステキですぞ〜」とほめるタナカ…それ以外の全員が声をこらえて大爆笑。その時、セバスチャンは絶対零度の目で使用人達を捉えた
「私の様な者にまでこの様なお心遣い…大変光栄に存じます」
「いいのよ♡」
笑顔で言うセバスチャンから離れた所では使用人三人が死んでいた
と、笑いがとりあえず引っ込んだシエルとスズカが気を取り直す様に咳払いをしてエリザベスの前に出た
「それよりリジー。何故ここに?」
『そうだな。叔母様はいないようだし…』
横目に落ち込むセバスチャンを見ながら二人が問いかけると、エリザベスはシエルに抱きついた
「シエルに会いたくて内緒で飛び出して来ちゃった♡」
「内緒で?お前は何を考えて…」
「あと、これないお兄様がスズカ姉様の写真を代わりに撮って来てって」
「『激しく来なくていい』」
「勿論写真なんて撮らないわ。スズカ姉様は私とシエルで独占するんだもの」
「…おい」
きゃっきゃっとするエリザベスにたじろいでいる二人を見ながら、バルドはセバスチャンに問いかけた
「セバスチャンよぉ、あの女一体何者だ?」
「ああ」
バルドからの問いにセバスチャンはさらりと言った
「エリザベス様は坊ちゃんの、許婚です」
「「「い…!!?」」」
「ちなみにエリザベス様の兄は、お嬢様の元・許婚です」
「「「…!!?いいなずけぇええ!!?」」」
ーーーー生まれながらに許婚を持つ事が多い英国貴族。例外でなく、ファントムハイヴ伯爵こと坊ちゃんとご令嬢であるお嬢様にも許婚が存在するのでありました
貴族の妻は、貴族の夫は、貴族でなくてはならない
エリザベス嬢もれっきとした侯爵令嬢、その兄は時期ミッドフォード侯爵家の跡取りなのでございます
…まあ、お嬢様は幼い頃に泣きわめくほど拒否ったので今のところ取り消しでありますが、お相手の方は諦めていらっしゃらないご様子