絆の軌跡〜過去と未来の交錯〜

□巻之泗 遠征に向けて
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拾六 木の実を求めて

西暦7000年 海岸の洞窟入り口 sideフライ

ボクはブラウンさんに連れられて、ギルド近くの洞窟、[海岸の洞窟]にやってきた。

「ここでゲス。」
「ここが[海岸の洞窟]なんですね?」

近くがいいと言ったけど、まさかこんなに近くにあるとは思わなかったよ。
だって、飛べばたった2分ぐらいの距離だよ?

「はいでゲス。[モモンの実]は一つでいいでゲスね?」

ブラウンさんは見上げて聞いた。

「いや、3つ必要です。」
「えっ!?そんなにあっても………」

ブラウンさん、確かにそうだけど……

「ブラウンさん、シルクは[太陽ポケモン]、快晴の時は五感が冴えるんです。それゆえに感覚器官への刺激も大きくなります。もちろん、シルクにとって負担になることも例外ではありません。だから、普通の木の実では治療が追いつかないんです!!」
「!? フライさん?」

ボクは言葉に力を込めて言い放った。

「だから、効果の大きい物、薬品で治療しないといけないんです!そのためには、[モモンの実]が3つ、どうしても必要なんです!!ボクは、シルクをはじめ、仲間達がいてくれたからこそ、ここまでやってこれた。だから、シルクを救うためにも、必要不可欠、だから………、その薬品を作らないといけないんです!!」

シルクがいなかったら、ボクはここまで強くなれなかった。

シルク達がいなければ、ボクはまだ進化していなかった。

シルク達がいなければ、今までの楽しい時、人生がなかった!!

だから……

「………フライさん、フライさんのシルクさんに対する気持ち、伝わったでゲス。だから、絶対に[モモンの実]を持ち帰るでゲス!」

ブラウンさん、ボクの気持ち、わかってくれたんだね?

「ブラウンさん……、絶対に、見つけましょう!!」
「はいでゲス!」

ボクは自分に言い聞かせた。

シルク、絶対に、作って持って行くから!!

………

海岸の洞窟 浅奥部 sideフライ

ここのダンジョン、ボクにとっては不利かもしれないよ……。

だって、出会った種族はカラナクシとウパー、ボクの弱点の水タイプ。
技の威力は低いとはいえ、気が抜けないよ。

………一応ボクは依頼主の立場だから、戦っているのはブラウンさんだけどね。

「フライさん、大丈夫でゲスか?」
「うん。湿気が多くて不快だけど、平気です。」

さすが、海辺にある洞窟。
ジメジメして気持ちが悪いよ……。

ちなみに、ここまでで拾った[モモンの実]は2つ。あと1つなんだけど、なかなか見つからないよ……。

「……この辺にはもうなさそうだから、奥に行きましょうか。」
「そうでゲスね。」

ボク達は頷き、湿気の多い洞窟の奥に歩みを進めた。


数分後 中奥部 sideフライ

………くっ、囲まれた。この状況、マズいかも……。

なぜかって?

ボク達の周りにカラナクシが3体、ウパーが2体。
狭い場所で逃げ道を完全に塞がれたよ……。

「フライさんここはあっしが……」
「いや、ボクがいくよ。ブラウンさんは休んでてください。
「行くで………えっ!?フライさん!?」

ブラウンさん、闘いっぱなしだから、そろそろ交代しないとね。

「ここは危険でゲス!フライさんを危ないめにあわせる訳には……」

ブラウンさんは必死にボクを止めようとする。

「大丈夫です。これでも戦闘経験、積んでますから。」
「えっ!?ちょっと、フライさん!?」

ボクは取り乱しているブラウンさんを自分の尻尾で掴んだ。
そのままボクの背中に乗せた。よし!

「ブラウンさん、しっかり掴まっていて下さい![岩雪崩]!」

ボクは翼を羽ばたかせ、垂直に浮上した。
そのまま相手の頭上に複数の岩石を出現させた。

「「「!!?」」」

ブラウンを含め、言葉にならない驚きの声をあげた。

うん、奇襲成功!

ボクは高速で3匹、カラナクシ2体とウパーの背後に回り込んだ。

「「!?[水て……]/[泥……]」」「[超音波]!」

ブラウンさんを乗せたまま、ボクは相手が技を出す前に振動数の高い音波を発生させた。

……とりあえず2体。今ボクは空中にいるから、特殊技でない限り攻撃を受ける事はないね。

「フライさん、すごいでゲス!あの状況から逃れられるなんて!!」
「ボクはドラゴンタイプだからね。地面にいるより、空中の方が動きやすいんです。

ボク、身長に比べて脚が短いから………こういう種族だから仕方がないんだけどね。

「[[水鉄砲]!」」

眼下から水流が放たれた。
ボクは軌道を見切って、垂直に降下しながらかわした。

それと同時に紺色のエネルギーを手元に蓄積する。

右手に小さいもの、左手には大きめのものを形成した。
シルク、技、借りるよ。

「[目覚めるパワー]連射!

ボクは二体のちょうど中間点に向けて、大、小の順に放った。

3m、2m、1m、二物体の距離が縮まっていく。

0となった時、両者は四方(地面とは垂直)に弾けた。

「えっ!?」

ブラウンさんが背中で声をあげる。

……よし。まずは二体。次は…、あのウパーと混乱したカラナクシ。

「[水鉄砲]!」「[泥かけ]!」

再びボクに向けて技が放たれた。

右、左、ボクは軽々と物質をかわし、同時に自身の両手に暗青色のオーラを纏った。
この時点で相手との距離は5m。

「[体当たり]」片方はボクに向けて突っ込んできた。捨て身の攻撃だね。
……でも、まだまだ。

ボクは接触する寸前に左側に身を翻した。

「[ドラゴンクロー]!」
「っ!!」

右、

「!!?」

左、

竜を纏った爪で切り裂いた。

手応えあり。

………残りは混乱した一体のみ。
そろそろ効果が切れるころかな?

「フライさん![ドラゴンクロー]を使えるんでゲスか!?」
「うん。ボクが使える技はこの4つです。さあ、最後の一体、ここは1つ、試してみようかな?」

ボクはおそらく、目を輝かせているブラウンさんの応答に答えながら腰に着けているポーチに手をのばした。

取りだしたのは、昨日拾った[銀の針]2本。それを両手に一本ずつ、先端が下側にくるように持った。

「この技はリーチが短いから……[ドラゴンクロー]!」

握ったまま、両手に暗青色のオーラを纏った。

よし、いける!

「[水鉄砲]!」

一体になって、なりふり構わなくなってきたね。狙いが定まってないよ。

ボクは左右に身体をひねり、それらをかわした。

そのまま接近する。

「!?」

相手の目の前で急に進路を変え、死角に潜り込んだ。

「っ!!」

そこから、竜の小刀で切り裂いた。

威力は劣るけど、これなら3回以上連続で出来そうだよ。

だって、切り裂いてもまだ状態が続いているからね。

相手は斬撃に耐えられず、崩れ落ちた。

「フライさん、すごいでゲス……」

背後から感嘆の声、……あっ、ブラウンさんが乗ってた事、すっかり忘れてたよ。


数分後

「よし、これで危機は去ったね。」

ボクは背中のブラウンさんを降ろしながら呟いた。

「シルクさんもそうだったけど、フライさんも強かったでゲスね?」

ブラウンさんが興奮して言った。
声のトーン、上がってるよ……。

「ボクはまだまだだよ。仲間の中ではボクが一番新人だから、まだ未熟ですよ。」
「フライさんでもでゲスか!?」

ブラウンさん、そこまで驚かなくても……。

「うん。中でもシルクがダントツで強いんです。」

ボク達では全く歯が立たなかったから……。

「それはさておき……あれ?あれはもしかして……、」

あんな所にピンク色の木の実が……気がつかなかったよ……。

「フライさん、最後の一個、見つかったでゲスね!」
「うん。」

ボクはそこに飛んでいき、目的の木の実を拾い上げた。

「ブラウンさん、外までお願いします。」
「はいでゲス!」

ブラウンさんがバッチを掲げると、ボク達は例の光に包まれた。

………

海岸 sideフライ

ブラウンさんのバッチの効果で、ボク達は一瞬で洞窟から脱出した。
そのバッチ、本当に便利だね。

………それより、早く薬を作らないと!!

「ブラウンさん、空き瓶、持ってますか?」
「空き瓶でゲスか?あるでゲス。」

ブラウンさんは不思議そうに聞き返してきたけど、すぐに理解してくれた。

ブラウンさんは2、3個の瓶を取りだした。
これだけあれば十分だよ。

ボクもポーチから[モモンの実]を3つと、[オレンの実]を1つ取りだした。

「フライさん、[オレンの実]も使うんでゲスか?」
「はい。一定の比率で混ぜ合わせると、効果を最大限に引き出せるんです。」

この事はシルクが発見したんだよ。

………だから、シルクは[考古学者]より、[化学者]っていう肩書きがふさわしいかな?
うん、きっとそうだよ。

「そうなんでゲスかー。」

ボクはまず、[オレンの実]を搾り、瓶の1つに流し込んだ。
それを1/3ずつに分ける。

今度は、[オレンの実]の果汁の入った瓶にそれぞれ1個分の[モモンの実]の果汁を流し込んだ。

「ブラウンさん、少しの間耳を塞いでいて下さい。」
「? わかったでゲス。」

ブラウンさんの頭上に疑問符が浮かんだ。

ボクが言った通り、ブラウンさんは前脚で両耳を押さえた。

「よし。[超音波]!」

ボクは音波を発生させ、瓶を振動させた。
すると、液体が混ざり、鮮やかな薄紫色に変色した。

「完成、と。」「色が、変わったでゲス!!」

ブラウンさんは液体の変化に驚いている。
原理はわからないけど、シルクが言うには化学的な反応が起きているみたいなんだよ。

「ブラウンさん、今日のお礼として、これを1つ受けとってください。」

ボクはふたを締め、3つのうち1つをブラウンさんに差し出した。

「いいんでゲスか?」
「はい。ちなみに、毒を消すだけではなくて、少しの間だけ毒を防ぐ効果があるんです。」

あと、少しだけど、体力が回復するんだよ。これはたぶん、少し入っている[オレンの実]の効果かな?

「そんな効果があるんでゲスね?」
「はい。 ブラウンさん、ボクに乗ってください。シルクが待っているので。」
「はいでゲス!」

一度頷き、ブラウンさんがボクの背中に乗った。

そして、ボクは翼を羽ばたかせ、シルクが待つギルドに向けて飛びたった。

シルク、今行くから!
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