絆の軌跡〜過去と未来の交錯〜

□巻之拾壱 残された秘宝
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伍拾八 輝く水晶、チェリーの想い

西暦7000年 水晶の洞窟奥地 sideラテ

「ベリー、ここが一番奥みたいだね。」
「うん。………にしても、凄いね、ここ。」

僕達は順調に進み、遂にダンジョンの奥地にたどり着いた。

ベリーの言うとおり、見事な光景が広がっているよ。

鋭利に突き出した水晶の小部屋に、柱みたいな結晶が4本そびえ立ってる。

色も違っていて、薄紫色、茜、碧、浅青色に輝いているよ………。

更に、柱の中心にはひときわ大きな結晶が鎮座…………。こんなに大きな水晶は見たことないよ………。

でも、水晶は同じだけど、[時空の叫び]で見た景色とは違う………。

第一に、こんなに大きな結晶は無かった。

もしかして、空振り………?

でも、ブラウンさんが持ってきた結晶はここの物のはず………。

「……うわっ!ラテ!!水晶の色が変わったよ!!」
「えっ!?」

僕はベリーの感嘆の声で我に返った。

えっ!?色が!?

ベリーのほうを見ると、さっきまで茜色だった水晶が淡黄色に変わっていた。

どういう事!?

ベリーは間髪を入れずに別の水晶にも触れた。

「!!?本当だ!!今度は碧色が紫色に変わった!?」

ベリーが触れた水晶は、音をたてて変色した。

これはもしかして、何かの仕掛け?

そういえば、[霧の湖]の時も[グラードンの像]の謎を解かないといけなかった。

昨日の[地底の湖]だって、思いもしない所に隠されていた。

………っていう事はもしかして、この先にも道が続いている!?

「ラテも触ってみたら?」
「うん!僕も気になることがあるから、触ってみるよ!」

ベリー、言われなくてもそのつもりだよ!!

僕は前脚で浅青色の水晶に触った。

「!? 今度は碧色に!?」

また色が変わった!?

「それにしても不思議だね。わたし、こんな水晶初めて見たよ。」
「僕もだよ! ベリー、僕はこの水晶が何かの仕掛けになってると思うん…………」

……だ……。

そう言おうとしたら、あの目眩……、[時空の叫び]が……。

「ううっ……。」

僕は前脚で割れるように痛む頭を押さえてうずくまった。

「ラテ!?大丈夫!?………もしかして、[時空の叫び]が発動したの!?」

ベリーが僕を心配そうに覗き込む。

「……………かもしれないよ……。」

それだけ言うと、僕が見る世界が闇に包まれた。

やがて、一切の物音が聞こえなくなる。


辺りは静寂に包まれた暗闇……、何も見えない……。

「…………そういうことか!!つまり、水晶の色を青色に揃えればいいんだ!!」

この声は………、[霧の湖]の時と同じ声………。

きっと同じ人……。

「[アグノム]を表す色は[青]だからな。」

今度は別の声!?でも、どこかで聞いたような………。

「さすがは[グラス]!!僕だけでは解らなかったよ!」
「いや、[ラツェル]の閃きが無ければ解らなかった!」

いつも聞いていた人の声、やっとわかったよ!!

あの人の名前は[ラツェル]!シロさんに乗せてもらっている時に聞いた声もきっとそうだ!!

「流石、僕のパートナーだ!」

ここで、声が途切れた。

しばらくすると、僕の意識が覚醒した。

「………どう?何かわかった?」
「……うん。何とか謎が解けそうだよ……。」

僕はうっすらと笑みを浮かべた。

「なら、ラテに任せるよ。」

そう言うと、ベリーは一歩下がった。

………ええっと、整理すると、色を青色に揃えればいいんだっけ?

それに、[ラツェル]と[グラス]って誰なんだろう……。

[ラツェル]っていう人は僕の声と似てた気がするけど……。

……でもまずは水晶の謎を解かないと!

「ええっと、確か青色に揃えればいいんだっけ?」

僕は再度、確認しながら水晶に近づいた。

一回、二回………、

4本の柱は次第に一色に統一されていく……。

「………よし、と。これでいいかな?」

時計回りに揃えていき、元の場所に戻ってきた。

「青………?でも、どうして?」
「聞こえた声が[青]に揃えればいいって…………」

言ってたんだ……。

そう言おうとした時、

グラグラグラ……

と、轟音をたてて洞窟が震れ始めた。

「「!!?」何!??」

僕達は揺れに脚をとられながらも、何とか水晶から距離をとった。

一体何が!?

僕達は互いに身体を支えあった。


「………収まったた………?」
「……みたいだね……………。」

揺れが収まり、僕は堅く閉じていた目を恐る恐る開けた。

「うわっ!!何、あれ!?」
「もしかして、洞窟の入り口!?」
「ラテ!!さっさまでなかったよね!?」

うん!!あんな穴、なかったよ!!

やっぱり、この4本の水晶が鍵になっていたんだ!!

「もしかすると、まだ続きがあるのかもしれないよ!!」
「行ってみよう!!」
「うん!!」

っていう事は、この先に昨日見た光景があるかもしれない!

僕達は互いに視線を合わせて、頷き合った。

そして、突如として姿を現した水晶のアーチをくぐった。


………

数十分後 sideウォルタ

「とりあえず、ダンジョンは抜けたわね。」
「うん。 それにしても、ほんとに綺麗だよ。[デコボコ山道]の光景に匹敵するよ、きっと。」
「ねえ?その[デコボコ山道]ってどんな所なの〜?」

ぼく達はここまで和気藹々と歩みを進めてきた。

………何度かモンスターハウスに足を踏み入れちゃったけど、3人で協力して難なく突破したよ。

「俗に言う、活火山よ。常に火山灰が降りそそいでいたわ。」
「灰に光が反射して、凄く幻想的だったんだよ。」

へえ〜、一度見てみたいな〜。

「でも、私達の時代だから、ウォルタ君は行けないわね。……シードさんに頼めば話は別だけど……。」

そうなんだ……2000年代の場所なんだね……。

「……ふぅ、やっとここまで来れたわ……。一人で突破するとなると、やっぱり厳しいわね……。」

ぼく達が話をしていると、疲弊しきった声が辺りに響いた。

「チェリー、やっぱりあなたもここに来たのね?」
「えっ!?シルクにウォルタ君、それにフライさんも!?どうしてここに………。」

突然のぼく達の登場に、チェリーは驚きに押しつぶされている……。

チェリー、君の目的地はわかっているよ……。

「真の黒幕の野望を阻止するためにね。」
「チェリー、あなたには止められたけど、どうしても目をつむることが出来なかったわ……。ごめんなさい……。」

フライがぼく達の目的を語り、シルクがチェリーに向けて謝罪した。

ぼくも、[真実]を知った以上、無視は出来ないよ……。

それに、7200年代ではコンビだった2人の衝突を避けるためにも、そこに行かないといけない。

たぶん、嫌な予感がしているのはそのせい………。

「チェリー?1つ聞きたいんだけど、あの時、別れ際に漏らした言葉って………。」

場の空気はそのままで、シルクは真剣な表情で言った。

あの時って、昨日の事かな‥……?

「…………[タイムパラドックス]って知ってる……?」

「「「[タイムパラドックス]?」」」

ぼく達は知らない単語を耳にして復唱した。

「そう……。[過去]があって[現在]、[現在]があって[未来]があるでしょ?その[現在]を変えたらどうなると思う?」

チェリーも真剣に話しはじめた。

「[未来]が、変わる事になりますね……。」

フライが一言ずつ区切って答えた。

「その通り。その時、[矛盾]が発生するわ……。」
「確かに。あるはずの出来事が起こらなくなるから、既存の[未来]は存在しなくなるわね……。」

場に思い空気が流れた。

「その結果、既存の[未来]のポケモンはどうなると思う?」

立て続けに問題を投げかける。

「「「…………その[未来]のポケモンが存在しなかった事になる………。」」」

ぼく達は恐る恐る口を揃えた。

「そう……。この時代は、このまま進むと[星の停止]を迎えるわ……。でも、その結末を変えると、既存の[未来]の住民、つまり、わたしとグラスさん、ラツェルさん、奴まで消滅する事になるわ………。」

「「「…………」」」

ぼく達は衝撃的な[真実]に、言葉が出なかった。

……………もしかして、チェリーはラツェルさん…………、ラテ君が[過去]の人物って事を知らない………、かもしれない……。

「………この時代に来る前は、この世に未練なんて無かった………。わたしはただ、真っ暗で変化のない、[無]に染まったつまらない世界を変えたかった………。でも、この時代に来てから………、わたしは変わった………。」

チェリーの瞳が涙で潤み始めた。

「………この時代に来てから3日目……、わたしは同族のシードに出逢った……。………彼に一目惚れしてしまったわ……。彼もそうだったみたいで、苦しくも、わたし達は両思い、かけがえのない存在になってしまったわ………。」

チェリーの頬を、幾つもの光が緒を引いて流れ落ちた。

…………心が痛むよ………。

「………彼と同じ[時]を過ごしていると、今までに感じたことがない幸福感に満たされたわ……。でも、この時代に来た以上、後戻りは出来なかった……。出逢ってから1週間経ってから、わたしは意を決して彼に全てを話したわ………。暗黒の[未来]の事も………、わたしが消滅する事も………。シードは受け入れてくれたけど、内心はわたし以上に辛かったはず………。でも、話した後の彼のわたしに対する態度は全く変わらなかった………。むしろ、わたし達に協力してくれるようになったわ………。とても嬉しかったけど、いずれ来る永遠の別れを思うと、胸が苦しくなったわ……。………………もし、可能なら、もっとシードと楽しく過ごしたい………。[生きたい]……!シルク達とも、まだ温泉に行ってないし、もっと色んな場所にも行きたい!!…………でも、それは成す事が出来ない儚い[夢]………。」

とうとう、チェリーは泣き崩れた………。

チェリー………………。

「チェリー…………。そんな思いで、今まで過ごしてきたのね………。」

ゆっくり振り向くと、シルクからも暖かいものが流れていた。

「チェリーさん………、チェリーさん達が消滅する[未来]があるように、チェリーさんが消滅せずに、今と変わらない[未来]もあるはずだよ………。……よく考えてみてください。本来なら、ボクとシルクはこの時代には存在しないはず……。だから、この時代は少なからず変わっている事になる。」

フライが、ゆっくりと優しく話しはじめた。

「確かに、そうかもしれないよ…………。ぼくも、シルク達と出逢ってなかったらここまで強くなってなかったし、なにより[真実の英雄]に任命されてなかった。………[未来]が変わっているはずなのに、チェリーの知っている通りに事が進んでいるよ……。2人がいなかったらこの時代は無かったはずなのに………。」

だって、そうでしょ?

シルク達と出逢ってなかったらぼくはチェリーと出逢ってないし、昨日も、ベリーとラテ君は[時]を止める波に飲まれていたかもしれない………。

もっとさかのぼると、[エレキ平原]の時だって、シルク達と出会ってなかったら、そこで力尽きていたかもしれない……。

シロも駆けつけて無かった………、いや、シロとは出逢ってなかった。

もっとさかのぼると、ぼくはこうして[考古学]の真髄に触れることは無かった。

全ての始まりはあの時、あの場所で2人と偶然出逢ったのが始まりだった………。

「………だから、チェリーも、グラスさんも、ラツェルさんもちゃんといて、今と変わらない、あかるくて楽しい、変化がある[未来]もあるはずだよ〜。」
「…………フライさん、ウォルタ君、ありがとう………。[希望]を持たないとね……。元気がでたよ!」

チェリーは溢れる涙を拭いながら、[希望]を含めた笑みを浮かべた。
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