一対の光

□第1話 左刀の双剣使い
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04 梁沙渓谷 Side翔

A「…ねぇ、お兄ちゃん? お兄ちゃんはどんな武器使うの?」
翔「ん? 僕?」

[涼沙]から何分か歩き、午前の爽やかな風が吹き抜ける渓谷で依頼主の息子である少年が興味津々といった様子で僕に尋ねてきた。

辺りを見渡すと、まず最初に目に入るのが木々の開けたちょうど真ん中にある地面の裂け目……。10mほどある割れ目を勇気を出して覗いてみると、だいたい30mぐらい下のほうに落ちたらタダでは済まないような激流が、水しぶきをあげて轟音を轟かせている………。

………凄く険しいように見えるけど、崖にさえ近づかなければ安全……。
なぜなら、林から崖まで10mぐらいあるからね。

凶暴な魔物はほとんどいないから、[涼沙]と[西沙]を結ぶ主要ルートになってるんだよ。 ……いないと言っても、一般的な獣はいるけどね。

翔「僕は二本の短剣……、双剣だよ。」
A「双剣…? …って事は、それを両方とも使うんだね?」
翔「うん…。 ……普通ならね……。」

僕は少年の言葉に若干言葉を濁した。

………そう、「普通」なら……。

凛「確かに、そうね…。 …でも私は翔が右刀を使ってるのを見たことがないわ。 配属になった去年から包帯もずっと巻いたままだし……。」
A「片方だけ? なんで?」

…凛、さっそく核心に迫ってきたね…。

少年は彼女の言葉に首を傾げた。

翔「ちょっと訳があってね。 …また今度話s……」
凛「あんた、いつもそうじゃない! 一年もそう言って誤魔化してるんだから…、いい加減教えなさいよ!!」

彼女は半ばキレ気味で言い放った。

……今までずっとこうして先送りにしてきたけど、今にも{fal}で迫ってきそうだからなー………。
……さすがに、もう限界かもしれない………。

……できれば、聞かれたくないんだけど………。

翔「……ハァー……。 ……わかったよ。 今日の帰りに話すから…。」

…やっぱり、もう無理だ……。

…丁度物語も始まったワケだし、いい機会かな……?

でも、まだ心の準備が出来てないのが現状…、かな?

凛「やっと話す気になったのね…。 翔、私はし・っ・か・り、この耳で聞いたからね!」
翔「……分かったから……」

彼女はやっとのことで引きずり出した僕の言葉を聞いて、「ここ重要!」とでも言うように自身の耳を指さしながら主張した。

雄志「…お前ら、戦闘だ。」

翔・凛「「!?」」

えっ!?

僕の言葉を遮って、空気になりかけていた雄志さんが注意を促した。

雄志「<ラピン>の群れぐらいならお前達だけでも倒せるだろ?」

そう言い、彼は目線でその対象を見るように促した。

その方を見ると、だいたい30cmぐらいの大きさで兎に似た獣が立ちはだかっていた。
その数、3。

凛「当たり前じゃない! 〈ラピン〉は草。 それに対して〈フェニックス〉の属性は爆、私の属性は炎よ? 私に戦ってください! って言ってるようなものじゃない!! {faire}!」

彼女は勢いよく言い放ち、そのまま右手を空に掲げた。
そして、召喚士専用の魔法……、{faire}(フェイル)を発動させた。

これは召喚士が召喚獣を呼び出すもの。
属性は無。

術士では{hiar}にあたるんだよ。

彼女がそれを唱えると、彼女の目の前に半径1m程の魔法陣が出現した。

フェニックス「クァーー!!」

それが一瞬光り輝いたかと思うと、そこから突然体長2mにも及ぶ巨鳥が姿を現した。

A「!! 凄い!!」
B「<フェニックス>!?」
凛「さあ、いくわよ!!」
翔「もちろん!」

僕も、遅れを取らないように右側に携えている短剣を左手で引き抜いた。
すると、自身の左手を経由して僕の水属性がそれに伝わる……。

…これは琶の国の術士が持つ武器、全てに当てはまるんだよ。

翔「{aqua}!」
フェニックス「クァッ!」
凛「{fal}!」

僕は牽制のために真っ先に唱え、小さな水球を群れのうちの一匹を狙う。
詠嘆にかかる時間はほぼゼロで、魔法陣が出現することなく小さな水球が放たれた。

その間に、フェニックスは高度を上げ、僕と同じ標的に飛びかかった。
凛は別の個体を見据え、それとの距離を詰めながらさっきとは別の模様の魔法陣を出現させた。

ラピン1「!?」
ラピン2「キュッ!?」

一匹目は僕の水球で進路を阻まれ、その隙にフェニックスの爆属性を秘めた爪で切り裂かれた。

二匹目も火球に反応できず、力尽きた。

凛・ラピン3「よし、あと……」「キューーッ!!」

凛「!? しまった!! くっ! !? まさか、炎属性!?」
翔「凛!! {hiar}!」

えっ!?
炎属性!?

凛はもう一匹の接近に気付かず、直接攻撃をうけた。

それに咄嗟に反応した僕は、構えていた短剣を一度鞘に納めた。
納めるのに使った左手を前に突き出し、無属の回復魔法を唱えた。
すると彼女の足元に一瞬だけ模様が浮かび上がった。

凛・フェニックス「翔、助かったわ! …翔、交代!」「クァー!」

翔「って事は、変異種!?」

炎って事は、僕がいったほうがいいかな?


……ちなみに、変異種とは、数は少ないけど種族のものとは別の属性を持つ個体の事をいう。
変異種には固定の属性は無い。

……例えば、草属性を持つ<ラピン>の中には炎を持つものがいれば、氷のものもいる……。

凛「そうよ!」
翔「うん、わかったよ!」

炎に炎より、炎に水のほうが有効……。
…なら、僕が前衛で戦わないと!

僕は相方の言葉を聞き取り、再び抜きながら入れ替わるように前に出た。

ラピン3「!」

早朝ダッシュで鍛えられた脚力で距離を詰め、水を纏った左刀で一突き……、

ラピン3「キュッ!?」

弾けた水滴と共に右下から左上に振り上げ、

ラピン3「キューーッ…。」

濡れた剣先で真上から振り下ろした。

翔「……よし。 これで全部かな?」
凛「そのようね。」

とりあえず、3匹とも倒せたね。


この物語での初戦は、僕達の勝利で終わった。



 第1話 完 続く
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