一対の光

□第2話 翔の秘密
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03 梁沙渓谷 Side翔

翔「………。」
凛「………。」
雄志「………。」

……。

僕が解いていた包帯を巻きなおしている間も、異様な沈黙がそこに鎮座していた。
凛は恐らく、聞いてはいけないことを問い続けた事を後悔して顔を曇らせている……。
雄志さんも予想外の事実を耳にして言葉を失っている……。

午後の渓流では、崖の下の激流だけが時を刻んでいた。

フェニックス「クァー………。」

……一部を除いて……。

大型の鳥……、凛のフェニックスだけが何かを伝えたそうに声をあげた。

…もしかして、僕の事に気づいてたのかな……?

翔「……? …君は僕の事に気づいてたの……?」
フェニックス「クァ。」

…そっか。
やっぱり気づいてたんだね…?
獣って、こういう事に敏感なのかな…?

性別、あるのか分からないけど、彼は肯定の意味を込めて頷いた。

翔「…本当に…残酷だよね……、運命っていうのは……。 …気づからなければ何ともないんだけど…、それが知られるとまるで手のひらを返したように接し方が変わるんだよ……。 ……僕自身、いつ来るか分からない“死”の恐怖に毎日怯えているというのに……。」
フェニックス「…クァ。」

僕は独り言のように呟いた。

翔「……きっと、凛も雄志さんも他の人と一緒で白い目で見るようになるんだろうな………。」
フェニックス「………クァ……。」

……あぁ……、とうとうフェニックスも黙っちゃったよ……。

僕の心の叫びは虚しく午後の渓流の空気を振動させるだけ……

フェニックス「クァ!!?」

凛・雄志「!!? きゃっ!!」「!!! くっ!!」

翔「っ!! 凛!! 雄志さん!!」
フェニックス「クァーーーッ!!」

くっ!!

突然林のほうから突風が吹き荒れ、油断している僕達をいとも容易く崖のほうへと吹き飛ばした。

翔「!! ヤバい! {aqua}!!」
凛「……ウソ……でしょ……?」
フェニックス「クァーーーッ!!」

僕は咄嗟に魔法を唱え、その突風の発生元に水球を撃ち込んだ。

フェニックスもすぐに反応し、姿を現さない事の元凶を引きずり出すべく林のほうへ滑空していった。

翔「何!? あの数!? …まさか……群れ!?」
雄志「マズい!! {rewint}!!」
フェニックス「クァッ!!」

!?

フェニックスによって林から数えきれない数のフクロウのような獣……、<シュエット>が引きずり出された。

……本当に、マズい…!!

<シュエット>の属性は風。
対して、僕と雄志さんの水と風の風に対する相性は普通。
フェニックスの爆は弱く、凛の炎は相対関係にある……。

……まさに、最悪な状況だよ……。
例えるなら、“四面楚歌”…だね…。

突風で我に返った雄志さんは風の魔法陣を出現させ、複数の風の刃を撃ちだした。

雄志さんのそれは気休め程度の数の相手に命中した。

翔「くっ…! キリがない!!」
凛「このままでは逃げられ……えっ!?」
翔「!! しまっ……」
雄志「凛!! 翔!!」

……えっ!?

雄志さんは何とか耐えたけど、僕と凛は再びあおられて崖へと追いやられた。

……さらに悪いことに、ギリギリまで圧されていた僕達の足元が非情にも崩れ落ちた………。


…………僕達……、“死”ぬのかな………?

重力に引かれながら僕達も足場の破片と共に落下していく……。

……でも、こんな状況にもかかわらず何故か僕は落ち着いていた……。

……既に最悪な結末を悟っていたから……。

崩れ始めた場所の関係で、凛が僕よりも先に下へ下へと………

???━━━━{earth}って唱えてみて!━━━━

…えっ!?
何!?
この声!!?

“死”へのカウントダウンが始まっている僕の脳内に、ここにいる誰のものでもない澄んだ声が反響した。

…この時、凛から鋼鉄の波面まで20m……僕からだと22m………。

……{earth}!?
そんな魔法、聞いたことないよ!!

???━━━━いいから、早く! このままだとあなたもあの子も“死”ぬわよ!!━━━━

でっ……でも……

???━━━━早く!!!━━━━

……ダメだ……。
…何も思いつかない……。

……こうなったら、一か八か……

翔「{earth}!!」

僅かばかりの可能性に賭けるしかない!!

僕は謎の声に半信半疑のまま従い、その魔法を唱えた。

すると僕の前を落ちていく凛を包み込むように見たことのない模様の魔法陣が出現s……

翔・凛「ぐっ!! 腕がっ!!「えっ!? 止まった!!?」

i……!!

同時に……、僕の……使い物にならない……右腕に……激痛が走った……。

……気のせいかも……しれないけど……、凛の…落下が……一瞬止まったような………気がした。

……いや、……気のせいじゃない!!
先をいっていた………凛に追いつき、……彼女を……抱える体制に……入った……。

……ほぼ同時進行で……、僕の意識も……薄れていく………。

……そして、……止まっていた時計の針が……再び…動き始めた……。

???━━━━成功ね。 …あとはウチに任せて。━━━━

そして……、水に沈むように……僕は意識を……手放した……。


第2話 完 続く
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