その他・短編集

□買い出し
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 「さぁフォクル、そろそろ出発しよっか」
 「ああ、そうだな」
 時刻は午前九時、石造りの家屋が立ち並び、平和な時の流れる街に、一人の青年の声が響き渡った。その彼に、「フォクル」と呼ばれた狐、俺は通り抜けるそよ風に尻尾を靡かせながらそう答えた。大まかな背の高さは、四足立ちでは百センチで、後ろ脚だけで立ち上がれば百二十センチ。体毛はほとんどが薄い黄色で、所々に黒も混ざり、尻尾の先端だけは白い。しかし、その尻尾は一本ではなく、三本。その特徴的な尻尾から、俺の種族はトゥワレナードと呼ばれている。そんな俺は、そう言うと彼を見上げた。
 「飛翔、予算はいくらぐらいなんだ」
 「ううんと、今日は本棚とか机を買いたいから、五万くらいかな」
 視線をそらさず、俺は人間の彼、飛翔にそう問いかける。普通なら鳴き声としてしか認識されないが、彼は完璧に俺の言葉を理解する。そして、彼は一度青い空を見上げ、頭の中で何かを計算しながらそう答えた。
 説明が遅れたが、俺達が住む国は遙か昔から、俗にいう獣と共存してきている。獣との共存だけでなく、この国の誰もが魔法を使う。いや、魔法無しでは生活が成り立たないと言っても過言ではないだろう。また、この国には軽いながらも階級制度が存在する。獣の俺には詳しくは分からないが、階級によって何かしらの特権が与えられるらしい。
 ここで、話を俺達の事へと戻そう。まず初めに、俺の相棒、飛翔について。飛翔の職業は兵士。その中でも術士という部類で、主に魔法と武器を用いて戦う。術士が使う武器は、家系によって固定されている。彼の場合、二本の短剣、双剣を使うことを義務付けられている。魔法も、各個人で属性が固定されている。術士だけでなく、他の職業、獣も例外ではない。先天性であるため、変える事が出来ないと言ったほうが正しいだろう。俺と飛翔の属性は後ほど説明しよう。次に、俺自身の事。俺の種族は前にも言ったので、省略させてもらうとしよう。そもそも獣には、生活のし方から三つの部類に分けられている。一つ目は野生獣、これは何も言わなくても分かるだろう。二つ目は召喚獣。これは文字通り、召喚士に就いている獣を指す。これも、改めて説明する事は無いだろう。三つ目は補佐獣。これは野生を離れ、人々と生活する獣を指す。召喚獣との違いは、魔法に属するか、という点。召喚獣は一応魔法という扱いになるが、補佐獣はそうではない。召喚士以外に就き、主に人間達と助け合いながら生活している。
長くなってしまったが、このような前提で話を進めさせてもらおう。
「西沙の相場なら、そのくらいだろう」
「そうだね」
若干のあどけなさが残る彼は、魔法の効果によって訳された俺の言葉に頷く。その彼は首を上げると、右足を前に踏み出し、歩き始めた。俺も、歩調を合わせながら続く。一定のリズムを刻み、乱れる事なく石造りの住宅街を突き進んでいった。
「そういえばフォクル」
「ん? 飛翔、どうかしたか」
自宅から数十メートルほど歩くと、大通りが前方に見え始めてきた。行き交う人が多くなってきたこのタイミングで、隣を歩く飛翔はおもむろにこう聞いてきた。その彼を俺は再び見上げ、首を傾げた。
「こうして休みが出来たのって、いつ以来だっけ」
俺から見ると背が高い飛翔は、こう問いかけながら俺を見下ろす。
「飛翔が二等士に昇進して以来だから、二週間ぶりぐらいじゃないか」
「そうだっけ」
「俺の尻尾が三本になる少し前だから、そのはずだ」
そういえば、もうそんなに経っていたんだな。俺はそう感じながら、彼の問いかけに答えた。飛翔も同じ気持ちらしく、俺に聞き返す事でその事実を再確認する。その言葉に俺も改めて気づかされ、その瞬間を思い出しながら返事した。
補足説明をすると、魔法を使えるのは人間だけではない。当然俺達も種類は違うが扱う事が出来る。更に付け加えると、俺の種族は魔法の源、魔力が高まるにつれて尻尾の数、身体の大き、種族名が変化する。これは某アニメのような進化ではなく、成長だ。これは重要だから、これだけは理解してほしい。
「そういえばそうだったね」
「前のアパートから引っ越して以来、護衛任務続きで忙しかったからな。危うく俺も忘れるところだった」
「あれ? フォクルも」
「ああ」
「なら僕と一緒だね」
「そうだな」
要は、そう言う事だな。俺は心の中で、彼にそう付け加えた。すると、彼はハッとした様子でそう聞き返す。俺も、朗らかな気分に満たされながら頷く。そして、一拍の間を置いて二つの笑い声が響き渡った。その声は人通りが多い首都に繰り出し、楽しげに人混みへと紛れていった。
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