その他・短編集

□二つの道が交わる時
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#0 予想外の嵐

 上空  Side???



 『うっ、嘘よね』
 『天気予報では晴れるって言ってたのに』
 『ボクも…、予想外…、だったよ』
 ここは上空五百メートル、遮るものが何もなく、常に変わる風が勢いよく駆け抜けていく場所。眼下にはどこまでも青い海原が広がり、所々に大陸が鎮座する。見上げた空は晴れ渡り、海と似たような色で一面を染め上げている。

 そう、晴れているなら…。

 今現在の大空の機嫌は、最悪。出発する直前に確認した予報は大きくはずれ、あらゆる方向から乱暴な風が吹き乱れている。蒼いはずの天頂は気味の悪い黒一色に染め上げられ、時々稲妻が走り抜けている。この暗雲であらかた察しが付くとは思うが、その真下に入る私達には、凍てつくような雨、氷片が叩きつけている。
 そんな悪天候の中で、最初に声をあげた私は、持っている鞄を落とさないように注意しながら、乗せてもらっている彼の背中に、必死にしがみつく。降り注ぐ霰の痛みに歯を食いしばりながら、あり得ない、という意味を込めて、声を絞り出した。
 続いて声をあげた彼は、同じく乗せてくれている彼を気遣いながら、頭を抱える。最後に私達を乗せてくれている彼が、苦手な環境を辛うじて耐えながら呟く。しかし彼の羽ばたきは安定せず、時々ふらついている。時折一メートルほど降下しながらも、何とか状態を維持してくれていた。
 『―――、大丈夫』
 最初の彼が、苦痛の色を浮かべているもうひとりに声をかける。
 『正直言って…、厳しいかも…、しれない』
 声をかけられた彼は、この状況が相当辛いらしく、途切れ途切れに言の葉を紡ぐ。この時私は、本当に危機的な状況に陥ってると、改めて実感した。
 『―――、―――の・・・で…、くっ…、何とかならない』
 彼はもうひとりの様子を気にしながら、私に訊ねて来る。どこかに落ちた雷の轟音でかき消されてしまったけど、何とか発言を続けていた。しかしそれには、誰がどう聞いてもはっきりと分かるほどの、切迫感が込められていた。
 『そうしたいところだけど、出来そうにないわ。あの時使ったあれが最後…、エネルギーがもう残ってないわ』
 万事休す、と言ったところね…。私は自分の状態と照らし合わせながら、こう呟く。それと同時に、自分自身だけにもこう言い放ち、あのタイミングで使い果たすんじゃなかった、と後悔した。
 『そっか…。…なら―――、あの大陸まで飛べる? 一端そこに避難して、様子を見よう』
 私達のリーダー的存在である彼は、私の悲報に再び頭を抱える…。それでも何とか策を絞り出し、ふらつく彼にこう訊ねた。
 『ボクが耐えられるか…、どうかは分からない…、けど、くぅっ…、頑張って…』
 それにもうひとりの彼はこう答える。その最中に半径三センチぐらいの大きな氷塊が当たってしまい、悲鳴をあげる…。それでも何とか堪え、頑張ってみるよ、おそらく、そう言おうとした。しかし…。

ヒュゥゥゥ…

 『うわっ』
 『きゃぁっ』
 無情にも、今までとは比べ物にならないほど強烈な凶風が、私達に襲いかかってきた。降り注ぐ霰の勢力も増してしまった影響もあって、しがみつく私、彼も、耐えきる事が出来なかった。風に圧し飛ばされ、遂には吹き乱れる大空に投げ出されてしまった。
 『―――、―――っ! ユ…』
 投げ出されてしまった私は、必死に仲間の名前を叫ぶ。しかし、暴風によって遮られ、届かない。ならばもう一度、っと、喉に力を入れて大声をあげようとした。が、運悪く私の後頭部に氷塊が直撃。そのせいで私は、気を失ってしまった。

 ―――、―――、どうか、無事で…。
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