Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜

□Chapitre Une Des Light 〜新たなる大地〜
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Deux 朝の甲板で



 Sideライト


 「あぁー…、やっと見えてきた」
 船内のとある一室で、わたしは半ば吐き捨てるように呟いた。船自体がそれほど大きくないために、部屋自体も三畳ぐらいしかない…。部屋の半分以上をベッドが独占しているせいで、ティルやテトラ、ラグナにラフも一晩ボールの中で待機してもらっている。そのため、わたしには話し相手がおらず、暇という名の負荷によって腐りかけていた。
 そんな中、わたしは部屋の小窓から、外を覗き込んだ。すると視線の先には、人間では捉えられないほど遠くに、目的地と思われる大陸が顔を出しかけていた。
 わたしはポケモンだから見えるけど、あの距離ならまだ一時間ぐらいはかかるかな…。わたしはそう予想しながら、ついさっき片付けたベッドから立ち上がる。そのままの流れで自分の荷物を手にとり、それを肩から斜めに提げた。でもその手つきは、体長があまり優れないせいでスムーズではなかった。
 目覚めはそれほど悪くは無かったけど、何か気分が良くないな…。船に乗ってるのはこれで丸二日になるから、その疲れかな…。いや、それとも、ちょっと吐き気がするから、船酔いでもしたのかな…。そう考えながら、わたしは部屋の外に出るべく金属製のドアノブに手をのばした。
 「うぅぅっ…、やっぱりわたしって、酔ったのかも…」
 おぼつかない足取りのまま、わたしは荷物を抱え、廊下へと出る。直接甲板につながっているために、そこにはひんやりとした風が吹き抜けていた。その風が、毒状態にも似た症状に襲われているわたしの気分を、微かに和ましてくれる…、そんな気がした。
 「風に当たったら…、ちょっとは楽になるかな」
 部屋が甲板に近かったのが、不幸中の幸いだったかな…。もし部屋が真ん中のほうだったら、絶対に逝ってた。
 船酔いのせいで足元がふらつくわたしは、壁伝いに足を進める…。ニ十歩ほど歩いて、何とか通路の外に辿りついた。すると一気に強い風が吹き抜け、わたしの長髪が一斉に後ろへと流されていった。
 「みんな、おは…」
 「おぅ! もう来た! 俺とバトルして…」
 「だから、急に挑んだら失礼じゃない! それも…」
 「どうせ船の中は暇だから構わないんじゃねーの?」
 「人によると思うんだけど…」
 わたしの体調は、今は別として、昨日の夜からずっとボールの中で待ってもらってるから、早く出してあげないと!
 自分の体調は二の次にして、わたしはボールの中で控える仲間たちを出してあげるために、それに手をのばそうとする…。でもその途中で、いかにも活発そうな少年の声がわたしの手を止めたため、それは叶わなかった。すぐ後に、気が強そうな少女が制止しようとする…。それを更に別の少年が腕を組み、加勢するが、気の弱そうな四人目が、辛うじて圧し留めていた。
 この子たちは多分、友達同士で、旅行にでも来てるのかな。年はたぶんラフよりも少し下くらいだと思うから、始業前の思い出作り、かな?
 わたしはこんな風に彼らの事を推測し、話し終わるのを待つ…。
 「わたしで良かったら、いいよ」
 「おっ、マジかよ」
 「でも流石にこんな朝早くからは、迷惑、ですよね」
 まだ起きてからあまり経ってないし、目覚ましには丁度良いかな。
 三者さん…、いや、四者四様の反応をする少年たちに、わたしはにっこりと笑みを浮かべながら頷く。それに一人目が凄く嬉しそうに声をあげる。少し後ろでこの様子を見守っていた少女が、最後に遠慮気味にわたしに訊いてきた。
 「ううん、わたしも丁度調整とかしたかったから、いいよ」
 「本当ですか」
 「うん」
 彼女の問いに、わたしは一度首を横に振る。でもすぐに笑顔でそう答え、今度は大きく縦に振った。それに、五人のうち活発な三人の声が共鳴し、その真意を確かめて来る。もちろんわたしは、正面から肯定の意を伝えた。
 「もし良かったら、五人いっぺんに相手になるけど、どうかな」
 あのルールなら五人同時に相手出来るから、丁度いいかな。
 わたしはこの一瞬で最適な方式を探し出し、こう提案する。
 「ハァッ? 俺達、全員でかよ」
 「私達全員って、いくら何でもお姉さんが不利過ぎませんか」
 もちろん、フェアでない条件に、彼らは反対する。
 「その方が、戦い甲斐があるからね。ティル、起きてすぐに悪いけど、お願い」
 ティルだけじゃなくて、テトラにラグナ、ラフも五匹同時に相手にできる実力はあるけど、とりあえずね。それに昨日は、ティルはあまり戦ってない…、っと言うよりは、特訓だけしかしてなかったから、その結果を見るため、かな。
 そんな彼らには構わずに、わたしは伸ばしかけていた手を、パートナーが控えるそれに向ける。そして、その彼に呼びかけながら投擲した。
 『ライト、分かったよ。今日最初はどんな方式か、教えてくれる?』
 彼はボールから飛び出すと、無駄のない動きで着地し、衝撃を逃がす。すぐにわたしの方に振りかえり、軽く手首の緊張を解しながら訊ねてきた。
 本当は直接話して伝えたいけど、今のわたしは一人のトレーナー…、人間って事になってる。だから、こうして面と向き合ってる時に、はなる訳にはいかないよね…。ちょっとそれが不便だけど、仕方ないかな。
 わたしはこういう結論に至り、彼の言葉にうなずく。そして、彼に意識を向けながら、伝えたいことを言葉としてイメージした。

  今日最初のバトルは、一対五の群れバトル。あの子達がどんな種族で来るのかは分からないけど、いってくれるよね?

 伝説の種族として生まれつき備わってる能力、“テレパシー”で、わたしはティルに声に出すことなく、その事を伝えた。感情までは無理だけど、語尾のイントネーションを若干上げる事で、彼にその事を訊ねた。

  群れバトルだね? もちろんだよ。俺も丁度、最近思いついた戦法を試したかったんだよね。

 彼もわたしと同じように、声に出すことなく言葉を念じる。するとわたしの頭の中に彼の声が、まるでエコーがかかったかのように響き渡った。

  〜絆の軌跡〜シリーズから読んでくれている人は知ってると思うけど、一応ここで解説をしておくね。わたしが“テレパシー”を使える理由は、大丈夫だよね? …そう、わたしは人間じゃなくて、ラティアス。人間の姿でも、元々がポケモンだから、使えるってワケ。流石に技と種族としての“チカラ”は無理だけど…。
 わたしのことは置いといて、ごく普通のマフォクシーのティルも“テレパシー”を使える理由も話さないとね。…“テレパシー”は、伝説の種族専用の能力じゃないんだよ。サイコキネシスを使える実力と、練習さえすれば、出来るようになるんだよ。…ただし、ティルみたいに、エスパータイプの種族だけに限られてるんだけどね。
 …さぁ、解説はこの辺で切り上げて、そろそろ話に戻るよ?

 ティルは“テレパシー”でわたしだけに話しかけながら、前に向けていた視線を一瞬だけチラッとわたしの方に向ける。それと同時に頷いて、わたしの頼みを快く引き受けてくれた。

  そっか、なら、群れバトルはピッタリだね。

 「さぁ、始めよっか」
 それから、わたしは一度彼にこう伝えてから、視線を正面に戻す。そして、わたし達が話している間に準備をしていたであろう少年たちに、揚々と言い放った。

 厳密にはまだ着いてないんだけど、これがジョウト地方で最初のバトルだね。…だからティル、頼んだよ!
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