一対の光
□第5話 様々な出会い
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01 梁沙渓谷 国境付近 Sideエメル
エメル「…翔が“呪縛”を持ってたのは知ってたけど、まさか<水竜>になってるとは思わなかったよ…。」
翔《…実は僕もだよ。》
[涼沙]の近くで出逢った<水竜>から思いがけない事を聞いた僕達は何とか立ち直り、琶と榎の国境の近くまで歩みを進めた。
……ここまで来ればもう少し。
昼までには着けそうだよ。
僕は2本の尻尾を風に靡かせながら午前の木々の囁きを楽しんだ。
………あっ、翔以外がこうして話すのは初めてだね。
……えっ?
違う?
もう一人いた?
……うーん。
その人の事は何も聞いてないから知らないよ…。
…だから、その人の事はまた今度聞いてみるよ。
…と、いう訳で改めて自己紹介するよ。
僕はエメル。
<人間種>じゃなくて<獣人種>。
僕の特徴は翔から聞いてるよね?
<ドゥシャトレ>の耳、手と2本の尻尾。
それから腰から下も、<ドゥシャトレ>。
……だから、両足とも猫なんだよ。
ちなみに、僕の遺伝子は<獣人種>の限界、4割が獣、6割が人。
これは例え同じ血筋でも割合が変わるんだよ。
{parler}っていう魔法を使って話している<水竜>の親友は、慣れない4足で歩きながら言った。
凛「…会うたびにエメルには驚かされるわね。」
A「凛ちゃん、エメルは<獣人種>、当然じゃない!」
エメル「ちょっ……ちょっと莉奈さん、そこは……。」
僕達の上官の莉奈さんは、僕の敏感な首筋を撫でながら言った。
霜「エメル、大丈夫か?」
エメル「うん……、何とかね…。」
……正直、もう慣れたよ…。
僕の尻尾は下がり、苦笑いを浮かべながら呟いた。
……僕、猫だから喉元を触られると力が抜けちゃうんだよね……。
……喉も鳴っちゃうし……。
翔《莉奈さん、そろそろ止めておいたほうがいいと思いますよ?》
莉奈「翔君、……だって可愛いじゃない…」
…翔、ありがとね。
翔はいつもこうして僕に助け船を出してくれるんだよ。
……莉奈さん、可愛い獣に目がないから……。
でも、やめてくれたことがないんだよね……。
……だから、
エメル「いい加減にしてください!!」
莉奈「っく!!」
1本の尻尾で莉奈さんの手を押さえて、もう片方の尻尾で彼女の腹に一撃を加えた。
……いつになったら分かってくれるんだろう…。
……やっぱり、僕の爪で切り裂いたほうがいいかな?
僕が叩きつけた尻尾から一瞬だけ葉っぱが散った。
翔《……だから言ったのに……。》
翔は半ば呆れた様子で唸り声をあげた。
…これが、僕達のいつもの光景だよ。
……ちなみに、のたうち回ってる莉奈さんは翔達の上官の雄志さんと同じ班だったらしいよ。
ラピュール「………。」
ドフィーネ「………。」
あーあ……。
二匹ともため息ついちゃったよ……。
雄志「……着いたぞ。」
エメル・霜「「あれ?いつの間に?」」
凛「2人が争ってるうちにね。」
翔《……だね。 ……そういえば、今日の任務は何なの?》
……あっ!
雄志さんから聞いた時は翔はいなかったね。
エメル「今日は僕の故郷………。[梁唯]の警備だよ。」
……そう。
今日は翔達の班と合同で榎の町の警備。
……何日か泊りで町を巡回するんだよ。
それに、[梁唯]は僕が生まれ育った町。
琶国の術士に志願して以来だから1年ぶりだよ!!
……懐かしいな……。
翔《警備かー……。 それに[梁唯]って事は……》
霜「そうだ。 エメルの故郷だ。」
凛「来るの初めてだわ…。」
そもそも僕も含めて警備の任務は初めてだしね。
エメル「僕も一年ぶりだよ。 ……みんな、もし泊まるところが無かったら僕の実家を使って!」
凛「いいの?」
エメル「うん!」
そうすれば、宿泊費が浮くでしょ?
僕は懐かしの故郷の風を感じながら呟いた。
エメル「父さんも母さんも共働き、兄さんも[涼沙]で働いてていない。 広すぎる家に姉さんしか住んでないからね!」
僕の両親は首都の[楼伽]で司書として働いてて、兄さんも琶の国で結婚して武官として勤めてるんだよ。
…僕も家を出たから、姉さんしかいないってワケ。
僕は長い尻尾を撓らせながら言った。
雄志「……なら、頼もうか。」
エメル「はい! 任せてください!」
…それを狙ってかは知らないけど、そのつもりだったんでしょ?
…僕もそうだったし。
翔《……でも僕はどうしよう…。 家に帰れなくて荷物持ってないから……。 だから僕は一端戻って……》
雄志「その必要はない。」
翔《えっ!?》
昨日の魔法の効果が残っているらしい翔は見るからに困った様子で呟いた。
……表情、<竜>だから分かりにくいけど……。
凛「今日は私が早起きして翔の荷物と武器をとりに行ったんだから、感謝してよね!」
翔・エメル《えっ!? 凛が!?》「にゃっ!?凛が!?」
……珍しいこともあるんだね……。
彼女の言葉を聞いて、僕の猫耳がピクッと動いた。
雄志「……だから翔、お前は戻らなくてもいい。」
翔《あっ、ありがとうございます。 ……なら僕はみんなが置きに行ってる行ってる間、空で待ってますね。》
霜「どうりで……。」
エメル「うん。 ……じゃあ、僕についてきてください!」
翔、よかったね。
彼から安堵の意が混ざった声が{parler}によって変換されて響いた。
その事を確認すると、彼は一度青い空へと飛び去った。
そして、僕も宿泊先となる僕の実家へと歩き始めた。
……姉さん……グリスも元気かな……?